1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。
ちょいレトロ風味の魔法譚。
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(どういうことだろう……)
再び風に飛ばされながら、ステファンはさっきオスカーが言った言葉を思い出していた。
(ぼくが赤ん坊って? それに戦争って? 大きな戦争なら、もう七年も前に終わったはずだ)
何度も違う場所に飛ばされ、その度に違うオスカーを見た。ステファンはもう父に呼びかけようとはしなかった。
(そうか、ここはお父さんの思い出の中なんだ。ぼくの声は届かない。木の葉みたいに飛びながら見ていることしかできないんだ……)
ふと風が止んだ。ステファンは見覚えのある場所に立っていた。
「ステファンこっちへいらっしゃい、いいお天気よ」
髪の長い小柄な女性が、芝生の上で呼びかけている。その灰色の目を見て、ステファンは驚いた。
(お……お母さん?)
輝くような笑顔をした、若い母がそこに居た。母がこんな風に髪を下ろした姿など、しばらく見ていない。ステファンの知っている母ミレイユは、常にぴっちりと髪を結い上げ、凛とした眼差しで家を取り仕切る厳格なイメージしかなかった。
「おや、日光浴かい? そうだ、フィルムがまだ残っていたから写してあげよう」
カメラを手に現れたのは、ステファンの記憶に残る通りの父だ。
それを見て、好奇心いっぱいの顔でちょこちょこと走ってくる幼子がいる。
(あれは……ぼく?)
確か三歳か四歳の頃だ。ここは黄色い屋敷の中庭に違いない。この日のことは覚えていないが、柔らかな陽射しの中でカメラを向ける父の姿だけは、妙に覚えている。
「ステファンだめだよ、そんなにカメラに近づいちゃ写せないよ」
オスカーは笑いながらシャッターを切る。その隣で屈託無く声をあげて笑うミレイユ。
こんな日もあったのだ。
こんな明るい母も居たのだ。
見ているステファンの目に涙が浮かんできた。
「お父さん!お母さん!」
聞こえないとわかっているのに、ステファンは叫びながら思わず駆け寄ろうとした。
パタン。
本が閉じるような音がして、目の前の全てが消えた。
「フウ、危ナイ危ナイ」
茫然としているステファンのすぐ隣に、鈍く光る仮面が浮いていた。
↑読んでいただいてありがとうございます。応援していただけると励みになります。
再び風に飛ばされながら、ステファンはさっきオスカーが言った言葉を思い出していた。
(ぼくが赤ん坊って? それに戦争って? 大きな戦争なら、もう七年も前に終わったはずだ)
何度も違う場所に飛ばされ、その度に違うオスカーを見た。ステファンはもう父に呼びかけようとはしなかった。
(そうか、ここはお父さんの思い出の中なんだ。ぼくの声は届かない。木の葉みたいに飛びながら見ていることしかできないんだ……)
ふと風が止んだ。ステファンは見覚えのある場所に立っていた。
「ステファンこっちへいらっしゃい、いいお天気よ」
髪の長い小柄な女性が、芝生の上で呼びかけている。その灰色の目を見て、ステファンは驚いた。
(お……お母さん?)
輝くような笑顔をした、若い母がそこに居た。母がこんな風に髪を下ろした姿など、しばらく見ていない。ステファンの知っている母ミレイユは、常にぴっちりと髪を結い上げ、凛とした眼差しで家を取り仕切る厳格なイメージしかなかった。
「おや、日光浴かい? そうだ、フィルムがまだ残っていたから写してあげよう」
カメラを手に現れたのは、ステファンの記憶に残る通りの父だ。
それを見て、好奇心いっぱいの顔でちょこちょこと走ってくる幼子がいる。
(あれは……ぼく?)
確か三歳か四歳の頃だ。ここは黄色い屋敷の中庭に違いない。この日のことは覚えていないが、柔らかな陽射しの中でカメラを向ける父の姿だけは、妙に覚えている。
「ステファンだめだよ、そんなにカメラに近づいちゃ写せないよ」
オスカーは笑いながらシャッターを切る。その隣で屈託無く声をあげて笑うミレイユ。
こんな日もあったのだ。
こんな明るい母も居たのだ。
見ているステファンの目に涙が浮かんできた。
「お父さん!お母さん!」
聞こえないとわかっているのに、ステファンは叫びながら思わず駆け寄ろうとした。
パタン。
本が閉じるような音がして、目の前の全てが消えた。
「フウ、危ナイ危ナイ」
茫然としているステファンのすぐ隣に、鈍く光る仮面が浮いていた。
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Comment
気になるぅ。
松果さんこんばんは♪
オスカーの章、楽しませてもらっています。
それにしても、ファントム!!一体なにをたくらんでいるんでしょう?
せっかくステファンが、家族の満ち溢れた愛をかみしめたというのに…。
それにしても、こんなに愛情いっぱいの家庭を築いていたミレイユとオスカーが、なぜ別れる事になってしまったのか?オスカーがあちこちで放浪していた訳は?
うーん。気になる事がいっぱいで、目が離せません!
続きを心待ちにしています♪
オスカーの章、楽しませてもらっています。
それにしても、ファントム!!一体なにをたくらんでいるんでしょう?
せっかくステファンが、家族の満ち溢れた愛をかみしめたというのに…。
それにしても、こんなに愛情いっぱいの家庭を築いていたミレイユとオスカーが、なぜ別れる事になってしまったのか?オスカーがあちこちで放浪していた訳は?
うーん。気になる事がいっぱいで、目が離せません!
続きを心待ちにしています♪
それはね。
ミナモさんへ
いつもありがとうございます。
ファントムは結構重要な役どころなんですよ。
オスカーの謎は……う~ん、もうちょいと引っ張ります(笑)
あちこちでばらまきまくった伏線、只今回収作業におおわらわ。
いつもありがとうございます。
ファントムは結構重要な役どころなんですよ。
オスカーの謎は……う~ん、もうちょいと引っ張ります(笑)
あちこちでばらまきまくった伏線、只今回収作業におおわらわ。