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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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 いい匂いがする。
 
 午後のお茶のために、お母さんがスコーンを焼いているのかもしれない。
 いつのまにうたた寝してしまったのだろう。
 起きなきゃ。
「ステフ、ステファン」
 懐かしい声が、すぐ傍で聞こえる。
 大きなあたたかい手が、額に触れている。
 お父さん、帰っていたんだ――

 パチパチッ、と金色の火花が頭の中に飛んで、ステファンは目を開けた。
「や、おはよう。それともお帰り、というべきか」
 水色の目がのぞきこんでいる。
 そうだ、ここは黄色い田舎屋敷ではない。額に手を触れているのは、父ではなくオーリだ。
 途端に意識が鮮明になって、ステファンは慌てて起き上がろうとした。
「ああ、急に起きないほうがいい。頭痛がするだろう」
 確かに。頭の中で調子っぱずれの音叉が鳴り響いているようだ。再び枕に沈み込むしかない。
 オーリはクッションをいくつか抱えてきてステファンの枕の下や背中に押し込み、上体が起こせるようにしてからコップを差し出した。
「とりあえずは水だ。それから食事、と言いたいが三日ぶりじゃ胃にこたえるな。マーシャが今スープを用意してるよ」
「み、三日も寝てたんですか?」 
 コップの水を一気に飲み干してむせながら、ステファンはバツが悪そうな顔をした。
「正確に言うと、書庫に立てこもってから一日半、出てくるなり眠り込んで一日半。ファントムから聞いたよ。書庫でとんでもない透視をしてみせたって?」
「ええっと……」
 ステファンは思い出そうと試みたが、一度にいろいろな事柄が頭に浮かび、どれから話していいかわからなくなってしまった。
「……ぼく、謝らなきゃ。先生、約束破ってごめんなさい。No.5の鍵をひとりで勝手に開けちゃったんだ」
「そうだ、想定内の約束違反だ」
 オーリはニヤリとした。
「けど、保管庫に入ってからのことは思いもよらなかった。無茶というか、無謀というか、途方もないな――悪いけど、寝てる間に記憶を見せてもらったよ――教えてもないのにあんな危険な魔法なんてやっちゃダメだ!」
「あれって魔法、だったんですか?」
「やれやれ、無自覚にあんな力を出したってのか。いいかい、あれは同調魔法といってね、対象になるモノに刻み込まれた記憶に入り込んで追体験するやり方だ。訓練を積んだ大人の魔法使いだって、気をつけないと意識を引っ張られたまま戻れなくなることがあるんだよ。現にそれで廃人になった奴もいる。ファントムが道案内になってくれなかったら、君は今頃どうなってたか」
 ステファンはぞっとした。仮面のファントムに“今に壊れるぞ”と言われた意味が、初めてわかった。
「オスカーが居なくなったうえに君までどうかなってしまったら、残されたお母さんはどうなる? ――あんまり突っ走るなよステフ。何のために“師匠”がいるんだい」
 ベッド脇に腰掛けたオーリは、なぜか顔を向けずに、手だけ伸ばしてステファンの頭をがし、と捉えた。父と同じにおいがする。
「ごめんなさい」
 謝りながらもステファンは不思議な安心感を覚えた。

「ステーフ! 起きた?」
 赤いつむじ風のように、エレインが飛び込んできた。返事をする間もなく、オーリからステファンをひったくると、
「生きてる! 生きてる! 良かったぁ!」
 と、骨も折れんばかりに頬ずりしてきた。最初に会ったときと同じだ。ステファンは必死で突っ張った。
「痛い、痛い、頭が割れるっ」
「そのくらいは我慢しろステフ、みんなを死ぬほど心配させた罰だ」
 オーリは笑いながら両腕を広げ、エレインもろともステファンを抱きしめた。
「坊ちゃん、スープを……おやまあ」
 スープの盆を持ったマーシャが、子供部屋で大騒ぎする三人を見て呆れ、それから袖口でスン、と鼻をすすった。
 両親以外にも、自分をこんなにも思ってくれる人たちがいる。――ステファンはもみくしゃにされながら、今さらのように帰ってこられて良かった、という思いをかみしめた。
  
 
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あったかい
松果さん、お久しぶりです!
続きが読めて、本当にうれしいです♪

ステファン、周りの人の温かさと、愛情に気付きましたね。
きっと、この気付きが、のちにステファンを大きく成長させるのですね…。

楽しみにしています!

戻って良かったね、ステファン♪
ミナモ 2008/01/07(Mon)06:34: 編集
擬似家族だけど
ミナモさん、ありがとうございます。

このお話は、(いまのところ)ほとんど一軒の家の中でゆるーく進行していますよね。しかもそこに住むのは血のつながりもない、婚姻関係も(まだ)ない、けれどお互いを思いやる温かさだけは溢れている、という人びとです。

こういうの、擬似家族っていうんでしょうか。
ステファンの実家では既に家族関係が破綻していることを考えると、「子供にとって本当に必要な人間関係ってどんなんだろう~」なんて考えてしまうわけです。

あれ?これって本当にファンタジー?肝心の魔法のお話はどこいったの?と自分でツッコミを入れつつ。

でもステファンも、今後はこの「ゆる~い、あったか~い」場所を出て厳しい現実に立ち向かわなくてはいけないわけで、
(そうでなきゃお話が盛り上がりまへん)
そろそろ心を鬼にして書かなきゃならん時、かもね。

いちおうテーマと起承転結を決めて書いてたつもりですが、なんやら当初目指していたのとは別方向へ進みそうな予感……
予定は未定。
ま、気長に見守ってやってくださいませ。
松果 2008/01/07(Mon)12:00: 編集
うふん♪
幸せ~!!
ミレイユの過去。なるほどと。うん。手紙の中身はとっても気になりましたが(笑)はがきで我慢だ♪
両親の生きてきた軌跡をたどり学んでいく…ちょっと、近づきましたね、大人に♪いいなぁ!
子供の額に親が手を当てるシーン、実はとっても好き。子供のころから風邪引かない子だったので、憧れでした~寝込むのが。うう、私もステフになってオーリにいい子いい子されたい(殴)
らんらら URL 2008/01/31(Thu)08:35: 編集
にゃはは
母親の若い頃の手紙。男の子にとってはどうなんだろう。
「おかんのラブレター?きもっ!」と思うのか、
「へー、うちの親でもこんな時あったんだー」と、ほのぼのするのか。わたしなら「読んじゃえ読んじゃえ~♪」となるんですがね(笑)

ステファンはここでちょっと大人に近づいた、まさにそうです。

オーリにいいこいいこされる~ってのはいいね♪
でもエレインのハグ攻撃は勘弁してほしい…



松果 2008/01/31(Thu)09:20: 編集
↓一連のタイトルに笑った
いや、本編とは関係ないんだけどね。
なんだこの並びは(笑
松果 2008/01/31(Thu)19:12: 編集
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趣味で始めたはずの小説にはまってしまった物書き初心者。ちょいレトロなものが好き。ラノベほど軽くはなく、けれど小学生も楽しめる文章を、と心がけています。
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