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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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 翌六日、ステファンは十一歳の誕生日を迎えた。
 マーシャは居間のテーブルクロスを変えて花を生け、張り切って特大のケーキを焼き始めた。
「そんな大げさにしなくたっていいのに。なんか恥ずかしいよ」
 テーブルを端に寄せ、いつもとは違う様子に整えられた居間を見て、ステファンは戸惑った。
「大げさじゃないよ。今日はステフにとってもわたし達にとっても大事な日なんだ。ちょっと手伝ってくれ、屋根裏にあとニ脚、椅子があったはずだ」
「本当にお客を呼んじゃったの?」
「そうだよ、これも計画のうちさ。君の誕生日にかこつけて悪いかなとは思ったけど」
 屋根裏への梯子段を昇りながら、オーリは悪戯を企むような顔をしている。

 ステファンはここ数日のめまぐるしいドタバタを思い出していた。
 ヴィエークホールの美術展で評判を呼んだオーリの絵は結局、国内の資産家が良い値で買い取ることとなったのだが、そこからが大変だった。まず、美術展初日に名乗りをあげた例の外国人女性――ジゼル・ミルボーと名乗った――が、絵を諦める代わりにぜひエレインと直接会って話を聞きたいと熱心に言ってきたのだ。やがてこの女性だけでなく、新聞で竜人のことを知ったという多くの人が問い合わせてきた。
 オーリはこの事態を予測していたようで、彼らをステファンの誕生祝いの席に招待し、そこでエレインの話を披露すると言った。ただし条件付きで。
 条件とは、現在の竜人がどういう扱いを受けているかを知ってから来ること、そしてオーリの家の前に設けた“関門”を通り抜けられること、の二つだ。

「招待とか言いながらあの関門はないよ、先生。魔法で作った生垣の迷路でしょう? 無事に通り抜けられる人って居るのかな」
 誇りっぽい屋根裏部屋で椅子を引っ張り出しながら、ステファンは明り取りの小窓から庭を見た。この季節、ほとんどの植物が枯れた姿を晒している中で、力強い常緑樹の緑色を誇っているのがオーリの作った迷路だ。たいした距離でもなく、難しい道でもないはずだが、オーリが言うには、興味本位で竜人を見てやろう、などと思って来た者は間違いなく迷い、カラスに突かれて逃げ帰ることになるらしい。
「ま、難しいとは思うよ。そら、早速入り口でカラスの歓迎を受けてる奴が居る」
 オーリが指差す先に見えるのは、見覚えのある郵便配達夫の帽子だ。ステファンは大急ぎで屋根裏から下り、カラスにつつかれて悲鳴をあげている若者を助けに行った。
「シッシッ! だめだよ、この人は仕事で来たんだから」
 ステファンが杖を振ると、カラスたちは小馬鹿にしたように鳴き騒ぎながらも木の上に飛び去った。
「痛ててて、いい加減、担当を替えてもらいたいよなあ……ほらぼうず、お前さんに小包み。いいなぁお前、杖まで持っちゃってさ。毎日エレインさんの顔も見られるしさ。ちぇっ」
 そばかす顔の若い郵便配達夫はぶっきらぼうに茶色い包みを手渡すと、ため息をついて帰ろうとした。
「あのう!」
 ステファンは声を掛けずにはいられなかった。

*  *  *

「良くお似合いですよ、エレイン様」
 二階の部屋では、大きな鏡の前でエレインが重厚な衣裳をまとっていた。白地の袖の長い服には幾何学模様の縫い取り、同じ模様を織り込んだ前垂れ――竜人フィスス族の語り部が受け継ぐ式服だ。後ろに引きつめた赤い髪には極彩色の羽根飾り、耳に光っているのはいつかの黒い封印石ではなく、紅い石だ。
「またこの衣裳を着る機会があるなんて思わなかったわ」
 エレインは誇らしげに腕を伸ばして、袖口を飾る幾重もの幾何学模様を指差した。
「これは御祖母さまの縫ったところ、これはその前の語り部の。そしてあたしが縫った紋様はこれ。あまり上手じゃないけどね」
「立派ですよ、大事になさいまし。たとえ生まれた地を失ったとしても、失っちゃいけないものがございます。それは人間も竜人も同じこと。オーリ様もきっと力を貸してくださいますよ」
 手を取って祈るように言うマーシャの言葉に、エレインは微笑んだ。
「先のことは分からないけどね。でもありがと、マーシャ。“語り部エレイン”の務めを果たしてくるわ」
 部屋のドアを開けると、十一月の風が窓を揺する音が聞こえる。エレインは背筋を伸ばし、階段を下りていった。

「――でね、この黒いローブも今日届いたばかりで、ぼくまだ慣れてないんです。誕生日のお祝いにってお母さんが贈ってくれたんだけど。あれ? でもぼくのお母さんは魔法ぎらいなのに、どこでこれ買ったんだろ」
 ステファンの無邪気な言葉に客人たちはどっと笑った。
 赤々と燃える暖炉のせいばかりでなく、居間の中は暖かだ。子供も含めて十数人が集っている。結局はこれだけの人数がオーリの作った緑の迷路を無事に通り抜けたということだ。
 反面、カラスの手ひどい歓迎を受けた者たちもいた。カメラを持ったゴシップ誌の連中などはまず入り口で弾かれ、冷やかし半分で来た者などは迷路の中で堂々巡りをした挙句、疲れ果てて入り口に戻るはめになるのだ。
 最初に難なく迷路を通り抜けたのは、子供たちだった。続いて彼らの母親。新聞で初めて竜人と人間の過去を知り、心を痛めた人たち。例の外国人女性、ジゼル・ミルボーは本国で「竜人学」を研究しているとかで、子供のように歓声をあげながら迷路を楽しんで通り抜けてきた。
 ほとんどの人は、魔法使いの家ということで最初は緊張した顔をしていたが、オーリの気さくな人柄と薫り高いお茶を前にして、すぐに心がほぐれたようだ。ケーキを切り分けたあとは口々にステファンに向けておめでとうを言い、新米魔法使いのローブ姿に目を細めて談笑を始めた。
 
 ころあいを見て、オーリが立ち上がった。
「皆さん、竜人の話を心待ちにしていることでしょう。そろそろわたしの守護者を呼びます」
 オーリに招き入れられ、居間の戸口に現れた赤毛の娘を見て、客人からどよめき声があがった。
「おお、あの絵に描かれていたのはこの女性ですな?」
「なんて赤い髪……でもあの、こんな綺麗な娘さんが竜人? 信じられない」
 疑うというよりも戸惑っている客人たちに、エレインはニッと笑って長い袖をたくし上げてみせた。
 すんなりとした腕にくっきりと、竜人特有の青い紋様が見える。
「オオ! コレハ」
 ジゼルが立ち上がって近づいた。
「……間違イ無イ。刺青ナドデハアリマセン、竜人ダケガ持ツ紋様デス。アナタハフィスス族、デショウ?」
 感極まった様子のジゼルにエレインは快活に答えた。
「そうよ、あたしは竜人。フィスス族最後の生き残り、語り部のエレインというの。あたしの話を聞いてくれる?」

 
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おはようございます!
ひゃ~。どきどきです!
エレイン、がんばれ~!!
人の心を変えるのは難しいですよね。まずは知ること。うんうん。
(すでに感動して泣きそうな予感がある…)
ステフもお母さんからのプレゼントに満足そうで可愛いし♪
楽しみにしています!
らんらら URL 2008/07/25(Fri)08:07: 編集
らんららさんへ
そう、難しい大仕事をエレインはしようとしています。でも人の心を変えるのもまた人なんですよね。
ステフにはもうひと働きしてもらおうかな♪
松果 URL 2008/07/25(Fri)17:59: 編集
オーリがローブを送らなかったのは…
お母さんがステフに送るって知ってたの??
でもステフってば嬉しそう♪
オーリに送られるのも嬉しいだろうけど、お母さんからなんて、魔法使いを倦厭してただけに嬉しいだろうな~。
ってか、ローブじゃなかったとしても、嬉しいよね♪

語り部エレインの衣装姿。
なんかステキ~!!
エレインの語り、すごく楽しみ!

ミナモ URL 2008/09/23(Tue)22:34: 編集
ぐは!
コメントへのレス、ひとつ抜けてた~(*_*;

えーっとね、このローブの件を説明する文があったんだけど、いつのまにか消えてた…はっきり言ってミスですな。
端的に言うと…いや、このローブの話だけで掌編扱くらいの番外編が書けるからネタばらしはやめとこう(セコっ!)
かくして番外編のアイデアメモばかりが増えてゆく…いつ書けるんかーい。
松果 2008/09/24(Wed)03:49: 編集
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趣味で始めたはずの小説にはまってしまった物書き初心者。ちょいレトロなものが好き。ラノベほど軽くはなく、けれど小学生も楽しめる文章を、と心がけています。
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