1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。
ちょいレトロ風味の魔法譚。
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書庫の中は、ぼうっと明るい。照明があるわけではなく、天井自体が発光しているのだ。
何度も来ているので、書架の並びはだいたい覚えている。一番奥まで行けば、No.5の本は簡単に見つかるはずだ。
ところが今日に限って、ステファンはなかなか奥まで辿り着けなかった。角ごとに、「原色妖精一覧」や「近代魔法陣デザイン」といった派手な背表紙の本を目印にしていたはずだが、同じ本をもう三度は目にした。
(あれれ、堂々めぐりだ。書庫の中で迷子になっちゃった)
ステファンは周りの本を見上げ、クスリと笑った。この感じは、“王者の樹”の森で迷った時によく似ている。ただ、あの時のような恐怖感はない。むしろ何時間でもここに居たいような心地よさを感じる。
(よーし、お父さんの本は後からゆっくり探そう。どうせ外へ出ても先生と顔を合わせると気まずいだけだし、しばらく遊んじゃうか!)
涙の跡がひりひりする顔を手の甲でぬぐうと、ステファンは深呼吸した。
「そうだな、まず……“妖精”!」
言葉に反応するように、あっちこっちで微かな光が生まれた。
(まだぼんやりしてるな。もっと絞り込まなくちゃ)
目を細くして一番近い光に神経を集中する。光はしだいに範囲を狭め、一冊の本を照らした。手に取り、ぱらぱらとページをめくったステファンは、嬉しそうに指をさした。
「みーつけた!」
ステファンが指し示した先に“fairy”の文字が光っている。
これは父が教えてくれた遊びだ。ステファンは小さい頃、こうして文字や単語を覚えた。ただし、母の前でやってみせると血相を変えて叱られたが。
“妖精”の言葉に反応した本は何冊もある。ステファンはそれを片っ端から取り出しては読み、飽きればまた別の言葉で本を探した。
ステファンにとって、本を読むという行為は遊びと同じだ。こんな本の森のような書庫にいつまで居るのだろうとか、お腹がすいたらどうするのだろうとか、今は一切頭にない。ただ言葉を追いかけ、つかまえ、運が良ければ面白い文章に出会って、そのまま読みふける。こんな楽しい遊びをどうして止められるだろうか?
何度も来ているので、書架の並びはだいたい覚えている。一番奥まで行けば、No.5の本は簡単に見つかるはずだ。
ところが今日に限って、ステファンはなかなか奥まで辿り着けなかった。角ごとに、「原色妖精一覧」や「近代魔法陣デザイン」といった派手な背表紙の本を目印にしていたはずだが、同じ本をもう三度は目にした。
(あれれ、堂々めぐりだ。書庫の中で迷子になっちゃった)
ステファンは周りの本を見上げ、クスリと笑った。この感じは、“王者の樹”の森で迷った時によく似ている。ただ、あの時のような恐怖感はない。むしろ何時間でもここに居たいような心地よさを感じる。
(よーし、お父さんの本は後からゆっくり探そう。どうせ外へ出ても先生と顔を合わせると気まずいだけだし、しばらく遊んじゃうか!)
涙の跡がひりひりする顔を手の甲でぬぐうと、ステファンは深呼吸した。
「そうだな、まず……“妖精”!」
言葉に反応するように、あっちこっちで微かな光が生まれた。
(まだぼんやりしてるな。もっと絞り込まなくちゃ)
目を細くして一番近い光に神経を集中する。光はしだいに範囲を狭め、一冊の本を照らした。手に取り、ぱらぱらとページをめくったステファンは、嬉しそうに指をさした。
「みーつけた!」
ステファンが指し示した先に“fairy”の文字が光っている。
これは父が教えてくれた遊びだ。ステファンは小さい頃、こうして文字や単語を覚えた。ただし、母の前でやってみせると血相を変えて叱られたが。
“妖精”の言葉に反応した本は何冊もある。ステファンはそれを片っ端から取り出しては読み、飽きればまた別の言葉で本を探した。
ステファンにとって、本を読むという行為は遊びと同じだ。こんな本の森のような書庫にいつまで居るのだろうとか、お腹がすいたらどうするのだろうとか、今は一切頭にない。ただ言葉を追いかけ、つかまえ、運が良ければ面白い文章に出会って、そのまま読みふける。こんな楽しい遊びをどうして止められるだろうか?
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