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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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 ステファンとエレインが顔を見合わせて首を傾げていると、オーリは茶色い斑のある鳥を抱えて戻って来た。
「危うく翼を折るところだった。この鳥は魔女出版からの使いなんだよ。ちなみにフクロウじゃなくてトラフズクだ。立派な羽角だろう?」
 ウサギ耳のような羽角をひくつかせたトラフズクは、床に降りるとパン生地のように膨れ上がり、たちまち人間の男の姿になった。
「失礼、ガルバイヤン先生。道に迷って遅くなりましてな」
「こちらこそ失礼したね。うちの守護者は少しばかり手荒なもので――エレイン!」
 オーリにたしなめられて、エレインは梁の上からバツが悪そうに顔だけ出した。
「はぁい、あんた使い魔だったの? こんな時間に来るのが悪いわよ」
 トラフズクはエレインの姿を見るとピェッと叫び、一瞬顔が元に戻りそうになった。
「冗談じゃない、こっちはもう少しで仕事をひとつ失うところだ。ええと、ペン画は三枚仕上がってる。縮小魔法の解除はそちらの魔女に任せていいね?」
「結構で――オホン、わ、私はこれにて!」
 ペン画を入れた通信筒を背負い直すと、トラフズクは一刻も早くここから逃げ出そうとするように窓に駆け寄った。
「しかし今どき使い魔で連絡、ってのもどうかと思うよ。魔法使いだって郵便や電話くらい使ってるのに」
「魔女はこの国の郵便なんて信用しておりませんな。それに全部の魔女が郵便や電話で用事を済ませるようになったら、私の仕事が無くなります、オホン」
「それも一理あるな。じゃ当分君の世話になることにしようか。道中気をつけて」
 パシッという羽音と共に、男は元のトラフズクに戻って夜空に飛び立った。オーリは愛想よく手を振って見送ったが、くるりと振り向くと、難しい顔で言った。
「エレイン、最近の君はちょっと酷くないか? だいたい使い魔の連中なんてすぐ見分けがつくだろう?」
「知らないわよ。使い魔は使い魔の仕事を、あたしは自分の役目をそれぞれきっちり果たすだけ。それでちょっと行き違いがあったからって何?」
 オーリはムッとして言い返そうとしたが、ステファンが不安げな顔で見ているのに気付くと、小さな頭に手を置いて笑ってみせた。
「まったく困った大人ばかりだよな。とんでもない時間に来る使い魔、過激な守護者、そして夏休み返上の魔法使い! さあ、明日から忙しくなるぞ。午後にはオスカーの荷物も来るし、新しい仕事も入ってる。ステフ、しっかり眠っておいてくれよ。君にも大いに働いてもらわなくちゃ」
 ステファンはまだ不安そうに二人を代わる代わる見ていたが、やがてうなずくと、お休みなさいを言って自室に引き上げた。
 梁の上のエレインは、反省しているのか拗ねているのか、膝を抱えて背を向けている。
 オーリはふーっとため息をつくと、議論の続きは諦めて机に向かった。
「明日は新月か――やれやれ、魔の新月だな」

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兼業主婦
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趣味で始めたはずの小説にはまってしまった物書き初心者。ちょいレトロなものが好き。ラノベほど軽くはなく、けれど小学生も楽しめる文章を、と心がけています。
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