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波音が聞こえるものの、足元は砂浜ではなく岩だ。いや、人工的な石畳の広場のようになっている。
潮の香のする夕闇の中でそちこちに白い光の円柱が立ち上がり、光の中から着飾った紳士淑女が現れる。それぞれに挨拶を交わしながら、人びとが向かうのは背後の岸壁だ。門番のように巨大な一対の石像が見下ろしている。人びとがその石像の前で名乗る度にさっと岩が割れ、またすぐに閉じる。
オーリもまた進み出て、石像に向かった。
「初代ヴィタリーの娘たる賢女オリガの息子、オーレグ・ガルバイヤン。及びその弟子ステファン・ペリエリ」
低く、よどみなく、呪文でも詠唱するような声で告げる。
え? とステファンがオーリを見上げる間に、目の前の岸壁が割れた。
「先生、今の名前って……」
「母国語の本名だ。行こう」
オーリはステファンの背を押して岩の向こう側へ進んだ。急に明るくなって目が眩みそうになる。ステファンの目が慣れてきた頃、淡い光に照らされた庭園と古い屋敷が姿を現した。
「“オーリローリ”は画家としての名だ。ガルバイヤンというのも本来は祖父の持っていた“雷を操る”という意味の通り名なんだよ。母国では魔法使いは姓を持っていなかったんだけど、祖父がこの国に移り住む時、移民局での手続き上必要になって、通り名を姓として登録してしまったというわけさ」
ステファンは屋敷に集まる人びとを見回した。オーリの話は半分ほどしか理解できなかったが、魔法使いにも竜人同様、複雑な事情があるらしい。
「そうなんだ。でも誰もローブ着てないね。魔法使いの集まりじゃないの?」
「いや、ほとんどが大叔父と同郷の魔法使い、魔女だと思うよ。ただ、今日は魔力の無い一般人の客も来るはずだからね。“武装”してたんじゃ失礼だろう」
「武装って?」
広間に進みながら、オーリもまた周りを見渡した。
「いいかいステフ、“杖とローブ”というのは魔法使いの象徴でもあり、武器であり、鎧でもあるんだ。わたしたちは常に杖を携帯しているけどそれは、ピストルを隠し持っているのと同じくらいに物騒なことなんだよ」
ステファンはどきりとした。杖を持つにはややこしい手続きが必要、とは聞いていたが、そんな理由があったのか。
「よう、オーリ! ステファン!」
広間の向こうから頭に白銀の布を巻いた青年が声を掛けてきた。一瞬誰だかわからなかったが、声には聞き覚えがある。
「ユーリアン、さん?」
目を丸くするステファンの元に、褐色の笑顔が近づいてきた。丈の長い真っ白な異国の民族衣装を着ている。襟元から胸にかけての金糸を使った刺繍と、肩から長く垂らした緋色のショールが照明に映える。
隣に立つトーニャもまた、ユーリアンに合わせた緋色の民族衣装だ。右肩だけ出して斜めに巻かれた布が、丸いお腹の上でドレープを描いている。
「おい……二人とも、決めすぎだ。そりゃ綺麗だけどさ。主賓より目だってどうする?」
オーリはしげしげと夫妻の姿を見た。
「なあに、普通にしてたって僕は目立つんだし。それに僕の祖国じゃこれが正装だぜ。失礼にはならないだろう」
「どちらが失礼だか。結婚式にはオーリ以外だれも来てくれなかったんだから、今日はお披露目よ。大叔父様だって喜んでくださるわ」
ユーリアンと腕を組むトーニャは、周りの親戚に向けて挑むような笑みを見せた。額の中央と前髪の分け目が赤い粉で装飾されている。
不思議な唐草模様を染め付けたトーニャの白い腕で、何連もの豪華な腕輪がシャランと鳴った。
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八章ではぼつぼつオーリ個人のプロフィールを明かしてます。ええ小出しに(笑)
ユーリアン夫妻の衣装は一応インドの正装をモデルにしていますが、あくまで架空の世界ですから。現実の民族服とはちょっと違うとこがあるかも。
例えば頭に巻く布=ターバンは、本来シーク教徒が巻くもので、インド人男性みんなが巻いてるわけではないってことは、わかってるんだけども。
まあパーティだし~。無いよりはあったほうがカッコいいし~ってことで、許して。
(ユーリアンの髪は短髪だから、もちろん宗教的な意味合いは無いです)
ついでに言うと、トーニャの着るドレスですが、本物のサリーならちゃんと袖の短いブラウス着るんですよね。でもほら、夜会服だから肩を出した方がよかろうと。ベアトップみたいなのを下に着てたんではないかと。これも勝手なアレンジです、はい。
世界の仕組みがしっかりしているのってどきどきします!カッコイイ~。
ユーリアンとトーニャ。綺麗だろうな~!!
しかし。
結婚式にオーリしか来なかったって…微妙に緊張。
どんな人たちが集うんだろう!
楽しみにしてます~♪
世界の仕組み…いちおう簡単な年表や登場人物の履歴書が書ける程度には決めてるけど、あちこち抜けてるんです(*_*;
「杖とローブ」なんてRPGからの発想ですよ~
架空世界とかいいながら一から創作してるわけじゃなく、「なんちゃってヨーロッパ」の「なんちゃって50年代」ですから(笑)
どんな人も単独で存在してるわけじゃなくて、それぞれにルーツがあるんだろうな~とか。じーちゃん世代は苦労してたんだろうなあ~とか。そういう設定を考えるのは楽しいんだけどね。
オーリの一族…どんな人たちなんでしょうね。お楽しみに。