1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。
ちょいレトロ風味の魔法譚。
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ステファンが起きて歩き回れるようになった頃、一通の手紙が届いた。
「お母さんからだ!」
明るい出窓のそばに陣取り、ステファンは食い入るようにして手紙を読み始めた。ミレイユの文字は相変わらず几帳面で細かい。文面を目で追ううちにステファンの顔つきは真剣になり、けれどやがて笑い出した。
「先生、みてよこれ」
ステファンは笑いながら、居間でお茶を飲むオーリに手紙を差し出した。
「“わたしの大切なステファンへ どうしても言っておかなければならないことがあります、驚くとは思いますが冷静に読むように”……これ、わたしが読んでもいいのかな?」
ステファンはまだ笑いながらうなずいている。手紙の続きを読み進めたオーリは、うーん、とうなった。
そこにはミレイユの兄姉の“妙な力”のことが、まるで重大な秘密を告白するかのように綴られてあった。しかもミレイユ自身はなぜかそのことをしばらく忘れていたというのだ。
「これによると、お母さんは君が保管庫で見たのとそっくり同じ光景を夢で見て、昔を思い出した、ってことだね。しかも日付は三日前……ステフが書庫から出てきた日じゃないか」
「ね。おかしいよね。でも、伯父さんたちのことならぼくもう知ってるよ、って言ったらお母さんどんな顔をするかな?」
おかしそうに笑うステファンの顔を見ながら、オーリは感嘆するように言った。
「不思議なものだね。ステフ、君のお母さんは魔力なんてなくても、ちゃんと君と心がつながってるんじゃないか」
「でもさ、お母さんたら、自分からリコンを言い出したくせにお父さんに言った言葉まで忘れてたっていうんだから呆れるよね。ぼく、あんなに泣いて損しちゃった」
「忘れた、か。ああもしかしたら!」
オーリはパシッと手紙を指で弾いた。
「ステフ、これはもしかしたらオスカーとつながるかもしれないぞ」
「どういうこと?」
「これは多分、忘却魔法のひとつだ。相手が眠っているあいだに掛ければ、特定の言葉や出来事に関する記憶を忘れさせることができる。オスカーは独力で魔法を使えたわけじゃないけど、魔道具を使いこなすのは上手かったから、不可能ではないはずだ」
「お父さんがお母さんに魔法を掛けたってこと? そんな道具があるの?」
「だめだよ、保管庫に探しにいこう、なんて思ったら。それにあくまでこれは憶測なんだから」
オーリはステファンの心を見透かしたようにたしなめた。
「でも確かにおかしいとは思っていたんだ。君の話によれば、昔ミレイユさんはオスカーに向かって“兄たちのようにはさせない”と言ってたそうじゃないか。つまりその頃は、ステフの力をはっきり“魔力”だと認めて恐れてたってことだ。けど、思い出してごらん。君の弟子入りの話をした時はそんな態度じゃなかった。漠然と不愉快には思ってても、君の力がなんなのか、わかってない様子だったろう」
「じゃあ、ええと」
ステファンはこんがらがりながら、懸命に思い出そうとした。
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「お母さんからだ!」
明るい出窓のそばに陣取り、ステファンは食い入るようにして手紙を読み始めた。ミレイユの文字は相変わらず几帳面で細かい。文面を目で追ううちにステファンの顔つきは真剣になり、けれどやがて笑い出した。
「先生、みてよこれ」
ステファンは笑いながら、居間でお茶を飲むオーリに手紙を差し出した。
「“わたしの大切なステファンへ どうしても言っておかなければならないことがあります、驚くとは思いますが冷静に読むように”……これ、わたしが読んでもいいのかな?」
ステファンはまだ笑いながらうなずいている。手紙の続きを読み進めたオーリは、うーん、とうなった。
そこにはミレイユの兄姉の“妙な力”のことが、まるで重大な秘密を告白するかのように綴られてあった。しかもミレイユ自身はなぜかそのことをしばらく忘れていたというのだ。
「これによると、お母さんは君が保管庫で見たのとそっくり同じ光景を夢で見て、昔を思い出した、ってことだね。しかも日付は三日前……ステフが書庫から出てきた日じゃないか」
「ね。おかしいよね。でも、伯父さんたちのことならぼくもう知ってるよ、って言ったらお母さんどんな顔をするかな?」
おかしそうに笑うステファンの顔を見ながら、オーリは感嘆するように言った。
「不思議なものだね。ステフ、君のお母さんは魔力なんてなくても、ちゃんと君と心がつながってるんじゃないか」
「でもさ、お母さんたら、自分からリコンを言い出したくせにお父さんに言った言葉まで忘れてたっていうんだから呆れるよね。ぼく、あんなに泣いて損しちゃった」
「忘れた、か。ああもしかしたら!」
オーリはパシッと手紙を指で弾いた。
「ステフ、これはもしかしたらオスカーとつながるかもしれないぞ」
「どういうこと?」
「これは多分、忘却魔法のひとつだ。相手が眠っているあいだに掛ければ、特定の言葉や出来事に関する記憶を忘れさせることができる。オスカーは独力で魔法を使えたわけじゃないけど、魔道具を使いこなすのは上手かったから、不可能ではないはずだ」
「お父さんがお母さんに魔法を掛けたってこと? そんな道具があるの?」
「だめだよ、保管庫に探しにいこう、なんて思ったら。それにあくまでこれは憶測なんだから」
オーリはステファンの心を見透かしたようにたしなめた。
「でも確かにおかしいとは思っていたんだ。君の話によれば、昔ミレイユさんはオスカーに向かって“兄たちのようにはさせない”と言ってたそうじゃないか。つまりその頃は、ステフの力をはっきり“魔力”だと認めて恐れてたってことだ。けど、思い出してごらん。君の弟子入りの話をした時はそんな態度じゃなかった。漠然と不愉快には思ってても、君の力がなんなのか、わかってない様子だったろう」
「じゃあ、ええと」
ステファンはこんがらがりながら、懸命に思い出そうとした。
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