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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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 ほとんどの皿を片付け、デザートも済んだ頃、オーリは古い木製の箱を中庭に出してきた。
「わぁお、なに?」
エレインが珍しそうに覗き込む。
「音楽を楽しむ機械だよ、エレイン」
 オーリは大切そうに箱の蓋を持ち上げた。
 ステファンには見覚えがあった。典雅な装飾をほどこした箱の中に、ラシャを貼ったターンテーブルがあり、水道の蛇口と蓮の実を組み合わせたような金属が見える。側面にはハンドルが付いている――祖父の家で同じ物を見たことがあった。手動タイプの蓄音機だ。
「ステファン、魔法使いなんて便利そうで不便なんだよ。僕の場合電気系統に影響を与えやすくて、意識して魔力を抑えていないと流行の機械なんてすぐぶっ壊してしまう。だからこういう手動式のが重宝するんだ。ま、古道具屋で探すのも楽しいからいいけど」
「あ、なんだ、そのせいだったんだ」
「君も覚えがあるの?」
「ぼく、ラジオに近づけないんです。ノイズがひどくなって、しまいには真空管が割れるから」
「そりゃすごいね」
 オーリは笑いながらとクランク(ハンドル)を回したが、針を調整する時には妙に真剣な顔になった。
「懐かしい! 昔はこれでよく踊ったもんですよ」
 マーシャが眼鏡を外して黒いレコード盤の文字に見入った。
 オーリが息をつめて、盤の上にそうっと針を下ろすと、雑音と共に古い恋の歌が流れ出す。

「アトラス、踊ろ」
 エレインがアトラスの短い前足をとった。
 後ろ足で立ち上がると、アトラスは随分大きい。エレインも背が高いほうだが、ほとんどぶら下がるようにしないと手が届かない。
 アトラスは踊るというより、ただ飛び跳ねている。その度にズシンズシンと地面が揺れて、何度もレコード盤から針が飛び出すので、オーリは蓄音機を宙に浮かせなければならなかった。
「いいね、アトラス。そんな美人とダンスできて」
 オーリは冗談とも本気ともつかない羨ましそうな顔をした。
「妬けるかい?先生」
 アトラスはエレインを振り回しながらニタッと白い牙を見せた。
「オーリも踊ればいいのに!」
「エレインとじゃ、足を踏み潰されるのがオチだからね」
 オーリは立ち上がると、うやうやしくマーシャに手を差し出した。
「あらまあ、こんなお婆さんと。エレイン様をお誘いなさいましよ」
 そう笑いながら、マーシャはまんざらでもない顔をした。
 上手い。ステファンは目を見張った。オーリもだが、マーシャはまるで乙女に戻ったみたいに、優雅にステップを踏んでいる。
「悪いね、ステファン。レディーを二人ともとっちゃって」
「ううん、ぼく、こっちが面白い」
 ステファンは宙に浮いた蓄音機を興味深く見ている。
「先生、これが止まったら、次はぼくがハンドル回していい?」
 オーリは慌てて声をかけた。
「頼むからゼンマイを切らないでくれよ!」



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うらばなし~
 今回はこちらでごたくを並べます。
母や、周りのお年寄りのお話からの聞き書きをもとに想像(妄想?)をふくらませて書いてみました。わたしにとって「ちくおんき」のイメージは、ビクターのわんこが耳を傾けているような、でっかいラッパがついてるタイプなんですけど、そりゃいくらなんでも古い。ここで使われてるのは箱にホーン(ラッパ)が内臓されてるやつです。
 このお話の舞台となった1950年代にはもう電気蓄音機(いわゆる電蓄)が主流になってたはずだし、アメリカ発のジュークボックスがばりばり流行ってた頃でしょうに、ねー。
手動にこだわるってどうよ?と思いつつ。

 架空世界の話なのに現実世界のアイテムをどこまで登場させるか、というのは常に悩みどころです。
これが何百年も前なら時代ファンタジーよ、と開き直って堂々とその当時の物を出すんですが、1950年代という時代にこだわってしまったので、余計に。
 「電気」「電球」は仕方ない、として「テレビ」「ジュークボックス」はNG、「ラジオ」はグレーゾーン、「蓄音機」がギリギリセーフ、というのがわたしの中の線引きなんですが、根拠を問われると……?
 あ、使われているレコードはもちろん78回転のSP盤です。
 わたしの頭の中ではモダンジャズが流れてました。
レトロ趣味全開の話でございます。
オーリさんて若いくせに言葉や趣味がジジくさ……
松果 2007/10/01(Mon)23:27: 編集
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趣味で始めたはずの小説にはまってしまった物書き初心者。ちょいレトロなものが好き。ラノベほど軽くはなく、けれど小学生も楽しめる文章を、と心がけています。
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