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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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 ステファンが一階に下りて行くと、美味しそうな料理の匂いが漂っていた。
 キッチンから中庭に続く扉が開け放たれ、軒下には古い木のテーブルが置かれている。芝生では竜人エレインと翼竜のアトラス、そしてオーリが酒樽を囲んで談笑していた。
「お、ステファン、やっと来たね」
 オーリは素朴な木綿のシャツに着替え、長い銀髪は後ろに束ねていた。
 黒いローブを着ていた時とは随分雰囲気が違う。
「ねえマーシャ、やっぱり鳥を獲っといて正解だったろう。ステファンの歓迎のご馳走が一品増えた!」
 オーリは子供のようにはしゃいでいる。
「エレインも味見くらいしてみれば? マーシャの料理は絶品だよ」
「やなこった、火を通した肉なんて」
「人間は料理して楽しむものなんだってば。僕は好物なんだけどな」
 あれ、とステファンは思った。オーリは昼間、確かに自分のことをを「わたし」と言っていたのに。「僕」口調で他愛ないおしゃべりをするオーリはいたって普通の青年に見える。あんなに長髪でなければ、そして同席しているのが竜人や翼竜でなければ、誰も魔法使いとは思わないだろう。
 
 庭のテーブルに料理が運ばれ、賑やかな夕げが始まった。
 オーリの言っていた鳥料理や平べったいパン、赤い野菜煮込み、それからステファンが見たことも無い料理も並んでいる。
 こんなにくつろいだ雰囲気の食事もあるのか、とステファンは思った。食事中のおしゃべりがこれほど食欲を増すものだなんて初めて知った。
 ステファンの家でもお客を招いて会食をすることはあったが、食事の作法がどうとか、会話をふられたらどう答えなさいとか、母にこと細かく言われていたので、いざテーブルについても少しも食欲が湧かなかった。
 ここの家では、細かい作法は誰も気にしないらしい。唯一マーシャが気にするのは、会話が弾みすぎて料理が冷めてしまわないかということぐらいだ。
「ステファン、こうして食べればいいんだよ」
 半月型の包み焼きにオーリは豪快にかぶりついてみせた。ステファンも真似してみると、口の中いっぱいに旨い肉汁が広がる。香辛料をたっぷり使っているのに、不思議に優しい味がした。
 夏の日暮れはいつまでも明るく、風は涼しい。
「オーリに!」
「未来の魔法使い、ステファンに!」
 何度目かの乾杯をして――といっても杯を持てないアトラスはもっぱら酒樽に首を突っ込んでいるのだが――アトラスとエレインは上機嫌で酒を酌み交わしている。オーリは付き合い程度に時々小さなグラスを口元に運んだ。
「エレインさんは、食べないんですか?」
「ああ。彼女は人間の食べ物は、一切受け付けない。甘いお茶と酒類はいくらでも飲むけどね」
 オーリは、エレインにまつわる話をしてくれた。
「アトラスは見ての通りの竜だが、エレインは竜人、つまり竜と人との両方の特性を持つ人だ。彼女の種族は竜人の中でも特に変わっている」
「オーリ、誰が変わってるって? なぁに悪口いってんのよ」
 エレインが笑いながら振り返った。真っ赤な巻き毛が、日焼けした顔を縁取る装飾のようだ。
「君が変わった美人だって話」
 オーリはしゃらっと答え、続きを語り始めた。
「でね。僕はエレインと契約して護ってもらっている。魔法使いは結構狙われやすいからね。その、邪気というか、禍々しいモノに。代わりに僕は、魔力を供給している。こうしている間にも、エレインに必要なだけの魔力が流れて行ってるわけだ。おかげで僕は魔力を維持するために、大食漢でなきゃいけない」
 ステファンは空になった皿の山を見た。オーリはしゃべりながら何人分もの料理を平らげている。
「魔法使いって、大変なんですね」
「こんなのまだ大したこと無いさ。複数の竜だの幻獣だのと契約してる魔法使いはどうやって魔力を維持してるのか見当も付かないよ。それに大変なのは、むしろエレインのほうかな。人間と生きるために幾つもの力を封印しなきゃいけなかったんだから」
「封印したって……それでまだあの力ですか?」
「そう。だからエレインを怒らせないほうがいいぞ。本気で爆発したら、どこまで凶暴になるやら……」
 オーリは内緒話の仕草をして、横目でエレインを見た。
「こらーっ、オーリ! やっぱり悪口いってるー!」
「そうだ、ひでえぞ先生、エレイン姐さんみたいな美人に。お詫びにもうひと樽開けさせろい!」
「わかったわかった、そこにあるだけ飲んでいいから」
 オーリは笑って手を振ると、ステファンと自分の皿に骨付き肉を乗せた。
「お肉もいいけど、このサラダはいかが? 庭でとれたてのハーブを使ったんですよ。坊ちゃんも、たくさん召し上がれ」
「マーシャ、こっちよりアトラスが大変そうだ」
 オーリはフォークでアトラスのほうを指し示した。
 アトラスは、軟骨パイを丸呑みしたものの、喉につかえて目を白黒させている。
「あらまあ坊や、だめですよう、ちゃんと噛まなきゃ」
 アトラスが「坊や」だって? ステファンは呆れた。
「マーシャにあったら、大抵‘坊や’か‘坊ちゃん’だ。つい最近まで僕のことも‘坊ちゃん’呼ばわりだったしね」
 オーリは肩をすくめ、食べずに済んだハーブサラダを脇へ押しやった。。
「マーシャさんて、あの、もしかして魔女?」
「まさか。彼女は普通の人間だ。魔力は無いよ。でもこうして、魔法使いの家で淡々と勤められる人なんだ。竜だろうが竜人だろうが、分け隔てなく受け入れてくれる。ある意味、魔女よりすごいね」
 アトラスはエレインに蹴りを入れられて、ようやく喉のつかえが取れたようだ。
「バカね、人間の食べ物なんかに手を出すからよ」
「旨そうに見えたんだよう。ああ、やっぱり生肉のほうがいいや」
「ごめんなさいねえ、生のお肉はさっきのでおしまい。あとはみんなお料理に使ってしまって。こんど遊びに来たときは、いっぱい用意してあげましょうねぇ」
 生肉をいっぱい……ステファンはあまり想像したくない光景だ、と思ったが、マーシャはまるで子供にお菓子を用意するような口調だ。

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趣味で始めたはずの小説にはまってしまった物書き初心者。ちょいレトロなものが好き。ラノベほど軽くはなく、けれど小学生も楽しめる文章を、と心がけています。
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