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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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「先生、で、そのカンケイセイってわからないんだけど……」
「ああそうだ、話の途中だったね」
「なぜアガーシャは手に乗せても平気なのに、羽根ペンはダメなんですか? 先生はぼくの力が強い、っていうけど、とてもそんなふうに思えない」
 不満そうなステファンの表情に、オーリはちょっと苦笑いをした。
「わたしも質問していいかな。なぜさっき、君にだけアガーシャの光が見えたのか? あの光はとても弱いんだ。わたしより夜目がきくエレインでさえ、さっきは見えなかった」
「……わかりません」
「そうだろうな、わたしも君の質問には答えられない。ただ、君は何かアガーシャと共鳴する力があるんだろうな。個性と言ってもいい。それが何なのか、をこれから時間をかけて探らなくちゃ。学ぶっていうのはそういうことだ」
 オーリは杖を壁際の照明に向け、たぐり寄せるような仕草をした。雫型をした電球が弧を描いて飛んでくる。それを掌の中に受け止めて、オーリはあちこちの角度から透かし見た。
「それにもうひとつ。さっき君がちょっと触れただけでこいつが光った。もちろん誰もスイッチなんて入れてないのに、だ。ごらん、フィラメントが切れている――うちの照明器具は、魔力の影響を受けない仕様になってるはずなんだが――面白いね、アガーシャに、ラジオの真空管に、電球か。杖の申請書に書く項目がまた増えた」
「杖? 魔法の杖、ですか?」
「嬉しそうに言うなよ。まだ仮の杖だ。新しい弟子を迎えたら一ヶ月以内にその子の適性を見極めて、ふさわしい杖を貸与してもらえるよう、ユニオンに申請しなくちゃいけないんだ。で、その後師匠に認められればやっと本杖を自分で買えるようになる。結構面倒なんだよ」
 オーリは心底面倒くさそうな表情をした。
「ユニオンって?」
「ウィッチ&ウィザードユニオン、要するに魔法をなりわいとする者の同業者組合だ。ほんの数十年前までは‘ギルド’が機能していたらしいけど。いまだに師弟制度が続いているのはその名残だね。わたしはこういう縛りが嫌いなんだ、もっと自由にやらせてくれればいいのに」

「お茶がはいりましたよう」
 階下からマーシャの声が響いた。
「さ、難しい話は終わりだ。ただ覚えていてくれ、君はわたしにも無い力を持っている。自信を持つんだよ」

           *             *             *

 その夜、遅くまでアトリエの灯が消えることはなかった。
「……参ったなあ」
 オーリはひとり、描きかけのカンバスの前に座っていた。さっきから少しも筆は進んでいない。
「オスカーの息子だもの、才能があるのはわかってたけど……こうもはっきり目の前で力を見せ付けられると……いくら童心を持ち続けようとしても、本物の子供の感性には敵わないよな……」
 諦めて筆を置き、オーリは壁の写真を見つめた。
「もう取り戻せないんだろうか、アガーシャ」
 インク壷に問いかけているのではなかった。壁の古びた写真の中では、オーリに良く似た顔だちの魔女、東洋人の男、二人の間には白っぽい髪色の痩せた男の子、そして、天使のような笑顔を向ける赤ん坊が映っている。
「こういう時こそエレインが居てくれればいいのに。帰ってきやしないんだから」
 オーリは立ち上がると部屋の灯りを落とし、開け放した窓から外を見つめた。木立を涼しい風が渡っていくが、そこには誰の気配も無い。オーリはいつまでもそうして闇を見つめていた。

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スピリチュアルブームなんて大嫌い
このお話の中では、アガーシャをはじめとする得体の知れない連中がぎょーさん出てきますが、昨今流行っているスピリチュアルなんたらかんたら……は、わたし大嫌いです。精霊だの、オーラーだの、そういうのは空想物語の範疇で語られるからこそ楽しいのであって、現実生活でんなモンにすがってどうしますか。まあそれでゴハン食べている人も居るわけだから商売の邪魔する気はありませんけど。そのうち我が主人公たちにも、ひと言語ってもらいましょう。自己矛盾になるかもしれないけど、かまうかー!
松果 2007/11/14(Wed)08:32: 編集
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趣味で始めたはずの小説にはまってしまった物書き初心者。ちょいレトロなものが好き。ラノベほど軽くはなく、けれど小学生も楽しめる文章を、と心がけています。
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