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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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「ステフ、いいか、視覚だけに頼らず自分の直感を信じるんだ。何か少しでも光る物が見えたら教えなさい」
 オーリは棚の魔道具をひとつひとつ点検しながら言った。
 直感と言われてもよくわからない。これがリスか砂ネズミが逃げたというのなら、餌で誘い出すこともできるのにと思いながら、ステファンは床の上に身をかがめ、懸命に目を凝らして青い光を捜した。
 時間と共に部屋の温度は上がり、絵の具と油の臭いが鼻につく。エレインでなくても、この状況は充分に不愉快だ。ステファンは気分が悪くなってきた。

「出てきなさいアガーシャ! インク壷壊すよ!」
 エレインがついに怒り始めた。
「待った、エレイン。そうまで言うなら最後の手段を使うよ」
 オーリは杖を自分の額に向け、意識を集中するように目を閉じた。
 ステファンはぎょっとした。オーリの周囲に、微細な白い火花が舞っている。真冬に衣服の静電気が起きる時に見える、あの火花と同じだ。部屋が明るければ気が付かなかっただろう。
「火花なんて出さないでよ、揮発油も置いてあるんでしょ?」
 エレインが慌てて飛び退いた。
「だから魔法は使いたくなかったんだ。引火しても責任は取れないよ」
 目を閉じたままのオーリは口元だけ笑い、冗談めかして言ったが、急に顔を上げて告げた。
「ステフ、天井だ!」
 
 ステファンは目を凝らし、天井をくまなく見回した。すると微かだが、壁際から天井に向けた照明の上に青い光の帯が踊っているのを見つけた。
「見えた。電球に乗っかってます、先生」
「どこだ? エレイン、見えるか?」
「見えない。ステフ、どの電球?」
 ステファンは戸惑った。自分に見えるものは、オーリにも見えて当然だと思っていたのに、なぜ見えないんだろう。
「あのう、壁際のやつ、です」
「よーし、あたしに任せて」
 エレインはジャンプするため助走をつけようとしている。慌ててオーリが押しとどめた。
「待て、君じゃ壊してしまう。ステフ、まだ見えてるか? じゃ捕まえてごらん」
「ええ? ぼくが? どうやって?」
 エレインはオーリを睨んだが、ステファンにはニッと笑いながら近づいてきた。
「ステフ、高いところが怖い、とか言わないわよね?」
 え? と聞き返す暇も身構える暇も無く、ステファンはいきなり抱えられ、天井へと放り上げられた。
 視界が反転する。
 天井の梁に背中がぶつかる。
 落ちながら目の端で青い光を捉え、ステファンは夢中で手を伸ばした。
 指先が照明に触れた――と思った瞬間、電球はフィラメントが切れる直前のように眩く発光した。ステファンは目がくらんだまま、何か強い力に押されてくるりと回転しながら背中から落ちた。
「大丈夫か!」
 オーリの声が聞こえ、ステファンは目をしばたいた。電球はすでに消え、アガーシャの青い光が力なく落ちてくるのが見える。背中の痛みをこらえて手を伸ばし、ステファンはそれを受け止めた。
「は……はい先生、捕まえました」 
 ステファンは顔をしかめながら掌を差し出した。ところがオーリはすぐには受け取ろうとせず、信じがたいといった表情でしばらく見つめている。
「先生?」
「ああ、ありがとう――ステファン、よくやった。思った以上だな」
 オーリは無理をするように笑い、机の上から青いガラス製のインク壷を持ってきた。
「アガーシャ、もう懲りたろ?」
 声に促されて、青い光が生き物のようにステファンの指の隙間から滑り出し、大人しくインク壷の中に納まった。

「まーったく、魔法使いって!」
 エレインは勢い良くドアを開け、窓も開けにかかった。
 太陽の光と共に新鮮な空気が流れ込み、部屋の空気を押し流す。

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自己紹介:
趣味で始めたはずの小説にはまってしまった物書き初心者。ちょいレトロなものが好き。ラノベほど軽くはなく、けれど小学生も楽しめる文章を、と心がけています。
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