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「それよりオーリ、例の“竜人管理法”のこと。何か対策は考えてるの?」
トーニャが声をひそめた。
「ああ、エレインとはいろいろ議論してるよ。けど、わかってもらえなくてね。“野蛮なる竜人は竜に順ずる扱いとす”――希代の悪法だ。要するに竜人を隔離して、都合よく管理しようってわけだろう。ばかばかしい、なにが“管理”だ。もともと人間と竜人は対等なはずなのに。それに野蛮な迫害をしたのはむしろ人間のほうだろう!」
「落ち着け。悪法でも法は法、ってやつだ。お前がここで憤慨してても何も変わらないぞ、オーリ」
「わかってるさ! ああ、魔法使いなんてのはこの国じゃ無力だ。いいように振り回されて、何も意見できやしない」
オーリは腹立ち紛れなのか癖なのか、テーブルの隅にあった紙にぐしゃぐしゃを描いている。ユーリアンはそれを目で追いながら思い出すように言った。
「他の奴らはどうしてるのかな。屈強な竜人と契約している魔法使いは多いから、皆なにかの抜け道を考えているだろうけど。確か、一定の職業に就いて申請すればいいんじゃなかったっけ」
「でも守護者は“職業”としてどうなのかしら。魔法使い自体、公(おおやけ)には認められていないんだから、その“守護者”というのも有り得ない、と言われたら」
「ガルバイヤン家全体の守護者、ってのはどうだ?」
「いいよ。職業なんて適当にみつくろって申請書類をでっちあげる。それより問題はエレインのほうだ。彼女には“金(カネ)の意味がわからない。何度説明しても、わかってくれないんだ。申請のときには役所でいろいろ聞かれるだろうから……困ったな。まさか“報酬は魔力です”なんて言えないし」
「なあオーリ」
ユーリアンは大きな瞳でじっとオーリの表情を伺いながら言った。
「いっそ、結婚しちまえば?」
ポトリ。
オーリの手からペンが落ちて転がる。
石像のように固まったまま、その顔がみるみる赤くなる。
「な、な、なにを急に……なんでそんな話に」
「急に、じゃないだろうが。法的にはどうなるか知らんが、考えたことくらいあるだろう」
「ばかな! そんなつもりで契約したんじゃない!」
今や耳まで真っ赤になったオーリは、立ち上がって机を叩いた。
「ひと目惚れだったくせに」
ユーリアンは落ち着き払って、オーリの心を見透かすような口ぶりでいる。
「いいかオーリ、覚悟を決めろ。エレインを守るためなら手段を尽くせ」
「そんな……無茶いうな」
オーリは力なく椅子に座った。
「それこそ、エレインには理解しがたい話だ。いいか、竜人フィスス族を滅ぼしたのは人間だぞ。その人間と守護者契約をするってだけで大変だったんだから。それにあの一族は、普段は母親集団と父親集団が離れて暮らしてたんだ。“結婚”なんて考え方はもともと無い。ましてエレインなんて巫女みたいな育てられ方してたから……」
「何を言ってるんだか。どうして魔法使いってそういう考え方をするのかしら」
トーニャは冷ややかに言って新しいお茶を注いだ。
「仮にエレインが理解したとして。身分を保証するための結婚、なんて誇り高い彼女が納得すると思う?」
「……どうすればいいんだ?」
「自分で考えなさい。まったくいい年をして手のかかる」
すまし顔でカップを口に運ぶ従姉を、オーリはまだ赤い顔のまま睨んだ。
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はいー、今回オーリさんはちょっとピンチです。いじめ甲斐があります(おい)
お話が完全にステファンから離れて難しい方向に行っちゃいましたか。
児童文学のカテにも登録してるから、内容的にちょっとどうなの、とは思いましたが。
で、オスカーの手紙の謎は?
次話を待たれよ。