1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。
ちょいレトロ風味の魔法譚。
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「ふむ。雨も止んだし、ここらでいいかな。アトラス、止めてくれ」
運転手に声を掛けて車を止めると、オーリは自らドアを開けて車を降りながら、ステファンを促した。
「ちょっと降りて」
ステファンは訳が分からないまま、オーリに続いて車を降りた。
「先生、列車の時間に間に合わなくなるんじゃ……」
「列車? まさか。君はせっかく魔法使いと旅をするのに、空くらい飛んでみたくはないの?」
「空?」
オーリは杖を取り出すと、車を軽く叩いた。
「もういいよ、アトラス」
鼓膜に沁みるような音を立てて空気が震えた。と、たちまち黒い車は盛り上がり、形を変え、黒い翼竜の姿になった。
「うそ……!」
ステファンは自分の目を疑った。紛れも無い、本物の翼竜だ。全身が、金属を思わせるような黒光りする鱗に覆われ、尻尾の内側にはステファンのトランクがしっかり結わえ付けられている。
翼竜は背伸びするように翼を拡げると、ぬうっと首を突き出して金色の眼でステファンを見た。
「オーリ先生、今日はまたえらいチビのお客で」
「わぁ、しゃべった!」
「そりゃあしゃべるよ、竜だもの」
オーリは当たり前だという顔をした。
「アトラス、この子はステファン。今日からわたしの弟子になる」
「ほう、よろしくな」
「あ、え、ええと、ステファンです。よろしく……お願いします」
頭を下げながら、ステファンは竜にお辞儀をしている自分が信じられなかった。
「じゃ、行こうか。ステファン、前にお乗り」
オーリはまるで馬にでも跨るように、ひらりと竜に乗った。
「乗るって……これで、飛ぶんですか?」
「“これ”?“これ”で悪かったな、ちびすけ!」
翼竜が首を曲げて睨みつける。
「ごめんなさい! お、お願いします!」
「そうだよ、ステファン。竜は誇り高い。お行儀よくね」
あたふたとステファンが乗り込んだのを確認すると、オーリはトントン、とアトラスの首を叩いた。
翼竜の翼が大きく羽ばたき、風が巻き起こる。
「うわわわわ……」
生まれて初めての浮遊感。ステファンは目眩しそうになった。
「ステファン、つかまって!」
竜の首には、手綱ならぬごついロープが掛かっている。慌ててロープにしがみつくのと同時に、翼竜は空高く飛翔した。
パッチワークの田園が、みるみる遠くなる。
ステファンは恐る恐る下を見た。葡萄畑のはずれに黄色い屋敷が見える。
自分の生まれ育った家を上空から見るのは、奇妙な感じだ。
小さい。古ぼけた模型でも置いてあるかのように小さい。
あんな小さな世界が、全てだと思ってきたのだ、今まで。
遠ざかる景色を見ながら、ステファンは少しだけ母が可哀想になった。
「いいねアトラス! 翔ぶには絶好の風だ!」
ステファンの頭越しに、背後からオーリが叫んだ。
「でしょう先生! もうすぐ虹が出ますぜ!」
オーリはいつのまにか、ステファンの両手の外側で、同じロープをがっしり掴んでいる。
強い風を受けながら、ステファンはふと、前にも同じような事があったような気がした。
そうだ、思い出だした。父のオスカーと、初めてスクーターに乗った時だ。
小さかったステファンは、父の両膝の間でステップに立って、ハンドルを握らせてもらったのだ。その手の外側で、大きな父の手がハンドルを握った。実際に運転しているのは父なのに、まるで自分がスクーターを運転しているような気分になれた。あの時の爽快感。
もちろん、そんな危険な乗り方をしちゃいけないことは知っていたけど。後で母にこっぴどく叱られたけど。
「ステファン、虹だ、虹!」
オーリが指差した先に、大きな二重の虹がかかっていた。
「うわああ先生! ぼく、虹を追っかけて翔んでる!」
「翔んでるのは俺だがな! しっかり楽しめよ!」
アトラスはご機嫌のようだった。
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運転手に声を掛けて車を止めると、オーリは自らドアを開けて車を降りながら、ステファンを促した。
「ちょっと降りて」
ステファンは訳が分からないまま、オーリに続いて車を降りた。
「先生、列車の時間に間に合わなくなるんじゃ……」
「列車? まさか。君はせっかく魔法使いと旅をするのに、空くらい飛んでみたくはないの?」
「空?」
オーリは杖を取り出すと、車を軽く叩いた。
「もういいよ、アトラス」
鼓膜に沁みるような音を立てて空気が震えた。と、たちまち黒い車は盛り上がり、形を変え、黒い翼竜の姿になった。
「うそ……!」
ステファンは自分の目を疑った。紛れも無い、本物の翼竜だ。全身が、金属を思わせるような黒光りする鱗に覆われ、尻尾の内側にはステファンのトランクがしっかり結わえ付けられている。
翼竜は背伸びするように翼を拡げると、ぬうっと首を突き出して金色の眼でステファンを見た。
「オーリ先生、今日はまたえらいチビのお客で」
「わぁ、しゃべった!」
「そりゃあしゃべるよ、竜だもの」
オーリは当たり前だという顔をした。
「アトラス、この子はステファン。今日からわたしの弟子になる」
「ほう、よろしくな」
「あ、え、ええと、ステファンです。よろしく……お願いします」
頭を下げながら、ステファンは竜にお辞儀をしている自分が信じられなかった。
「じゃ、行こうか。ステファン、前にお乗り」
オーリはまるで馬にでも跨るように、ひらりと竜に乗った。
「乗るって……これで、飛ぶんですか?」
「“これ”?“これ”で悪かったな、ちびすけ!」
翼竜が首を曲げて睨みつける。
「ごめんなさい! お、お願いします!」
「そうだよ、ステファン。竜は誇り高い。お行儀よくね」
あたふたとステファンが乗り込んだのを確認すると、オーリはトントン、とアトラスの首を叩いた。
翼竜の翼が大きく羽ばたき、風が巻き起こる。
「うわわわわ……」
生まれて初めての浮遊感。ステファンは目眩しそうになった。
「ステファン、つかまって!」
竜の首には、手綱ならぬごついロープが掛かっている。慌ててロープにしがみつくのと同時に、翼竜は空高く飛翔した。
パッチワークの田園が、みるみる遠くなる。
ステファンは恐る恐る下を見た。葡萄畑のはずれに黄色い屋敷が見える。
自分の生まれ育った家を上空から見るのは、奇妙な感じだ。
小さい。古ぼけた模型でも置いてあるかのように小さい。
あんな小さな世界が、全てだと思ってきたのだ、今まで。
遠ざかる景色を見ながら、ステファンは少しだけ母が可哀想になった。
「いいねアトラス! 翔ぶには絶好の風だ!」
ステファンの頭越しに、背後からオーリが叫んだ。
「でしょう先生! もうすぐ虹が出ますぜ!」
オーリはいつのまにか、ステファンの両手の外側で、同じロープをがっしり掴んでいる。
強い風を受けながら、ステファンはふと、前にも同じような事があったような気がした。
そうだ、思い出だした。父のオスカーと、初めてスクーターに乗った時だ。
小さかったステファンは、父の両膝の間でステップに立って、ハンドルを握らせてもらったのだ。その手の外側で、大きな父の手がハンドルを握った。実際に運転しているのは父なのに、まるで自分がスクーターを運転しているような気分になれた。あの時の爽快感。
もちろん、そんな危険な乗り方をしちゃいけないことは知っていたけど。後で母にこっぴどく叱られたけど。
「ステファン、虹だ、虹!」
オーリが指差した先に、大きな二重の虹がかかっていた。
「うわああ先生! ぼく、虹を追っかけて翔んでる!」
「翔んでるのは俺だがな! しっかり楽しめよ!」
アトラスはご機嫌のようだった。
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ようやくお話が動いてファンタジーっぽくなってきました。
ここまで書いておいてでちと疑問が。
空の上で虹を見た場合、果たして「虹と同じ高さを飛んでる」なんてこと、あり得るのか?
んなこと事前に調べとけよ!という教訓ですな。
すみません、今さらですが必死こいて調べてます。
追記~
「虹と同じ高さ」はありえません。詳しい説明は省きますが、観測者から一定の角度っちゅうか高さに見えるはずなんです・・・ああお恥ずかしい、訂正しときます。
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