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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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 葡萄畑を過ぎ、パッチワークのような田園を抜け、黄色い屋敷が見えなくなったところで、オーリは突然笑い出した。
「プッ、ハハハハハ!」
「せ、先生?」
「ああ疲れた! どう? うまくいっただろう? 君の母上には悪いが、暗示に掛かりやすい人って居るもんだね。あとは魔法の効力が消えた時、誘拐罪で訴えられないように祈るのみ!」
 オーリはそう言うとまたふき出した。
「あのう……」
 ステファンは面食らった。ついさっきまで、客間で母と話していたオーリとは別人のようだ。
 なんだろう、この人は。
 さっきまでは、紳士らしくとても落ち着いて見えた。若くとも、大人はこういう話し方をするのだと、ステファンは畏敬の念さえ持って見ていた。けれど今、隣で腹を抱えて笑っている、この姿は?
「先生? あの、もしかして、最初から……」
「そう! オスカーに頼まれてたんだ。息子を外の世界へ連れ出してやってくれってね」
「お父さんに? 先生、お父さんと会ったんですか?」
「いや、手紙で頼まれたんだよ」
 オーリは一瞬表情を曇らせ、内ポケットから半分焼け焦げた紙片を取り出してステファンに渡した。
「読んでごらん」
 

 親愛なるオーリ
  この手紙を読んでいると言う事は、
  僕はまだ帰れないままということだろうか
  自らの心の命ずるままに探求の旅を続け
  ミレイユには随分と叱られてきたが 悔いてはいない
  ただ気掛かりなのは 息子のステファンのことだ
  彼には僕以上の素質がある
  才能といってもいい
  ただミレイユには理解できないだろうと思う
  オーリ もし僕があと二年のうちに帰れなかったら
  君に息子の将来を託したい
  勝手な頼みで申し訳ないが
  外の広い世界で存分に力を発揮させてやってくれないか
  ……

 焼け焦げた手紙はそこまでしか判読できなかった。
「お父さん、どこでこの手紙を書いたんですか……」
 ステファンは懐かしい父の文字を一文字ずつじっと見つめている。
「読めるんだね」
 オーリは信じられないという顔でステファンを見た。
「実はこの文字は、普通の人が見たら意味不明の記号にしか見えない。君にはちゃんとした文字として読める、つまりそういう目を持っているということだ。わたしやオスカーと同じように」
「どういうこと?」
「魔法使いの目、とでも言おうか」
 オーリは怖いほどじいっとステファンを見据えている。
 冗談を言っている目ではなかった。
「魔法使い……まさかお父さんも?」
「職業として、という意味では違う。ただ、力があったのは確かだ。本人はあまり自覚していなかったけどね」
 ステファンはくらくらとした。
 何もかも、初めて聞く話ばかりだ。
「お母さんは知っているんですか?」
「残念ながらミレイユさんは知らないし、理解しようとしない。魔術だの魔法だの、はなから信じてないからね。
オスカーもわたしも、なんとか分かってもらおうと努力はしたんだよ。今日も最後の賭けとしてこの手紙を見せたが、無駄だった」
 あ、あの時か、とステファンは思い出した。
 客間の扉の陰からそっと見ていた時。手紙に興味なさげな母に、それを見せて、と言いたかった。
「間違えないでもらいたい。君の母上を悪く言ってるんじゃないよ。信じるものが違うだけだ。今日わたしを招いてくれたのも、最大限の譲歩だったんじゃないかな。だから、そのチャンスを無駄にするまいと思った」
「それであの、お父さんは?」
「わからないんだ」
 オーリは悔しそうに額に手を当てた。
「この手紙をオスカーから受け取ったのは一昨年だ。いろいろ手を尽くして彼を探して来たんだが……残念ながら、手紙の後半も焼け焦げてて手掛かりが少なすぎる。
でも、親友とも兄とも思っているオスカーの頼みだからね、こうして来た。
今日、君の様子を見てたら、もうこれ以上は待ってはいけない、と思えてきてね、少々強引だが連れ出させてもらったよ……しかし、ここまで上手くいくとはね! ひょっとしてわたしは、画家よりペテン師に向いているのかな?」
 オーリはまた人懐こい笑顔になった。
「ステファン、君は今日からこのオーリローリの元で魔法使いになるべく修行をすることになる。本当にそれでいいね?」
 ステファンは今さらながら不安になった。
「あの、ぼくにそんな力が本当にあるんですか?」
「ある! それだけは保障する。あとは君次第だ。
もしも今からでも断りたい、家に帰りたいというなら、止めはしないよ。さあ、どうする?」
 ステファンは父の手紙を見、窓の外を見た。
 車は二つに分かれた田舎道にさしかかろうとしている。
「ぼく……やってみたいです。魔法の勉強、というか修行」
「よし、よく言った!」
 オーリは嬉しそうに拳でステファンの肩をトン、と突いた。
「実際にやってみればわかる。君のように物の本質が見えてしまうのは、相当な……まあいいや、難しい話はあとあと!」
 オーリは窓の外を見た。

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きゅ~(@@。
そっか~!!
お父さんからの依頼だったんですね!
なんだか、「帰れずに…」とか。
不穏な感じ。心配です~。
とにかく、まずは修行ですね♪
ますます気になりつつ♪また来ますね~
らんらら URL 2008/01/21(Mon)10:04: 編集
不穏ですとも、ええ。
このオスカーが、お話の最初から最後までひっぱりまくって…(以下ネタばらし自粛)

修行といいつつ、オーリは口ばっかり、能書きばっかりで大したこと教えません。まったりのんびり大雑把、ホンマにやる気あるんかいな。

こんな調子ですが、気長に見守ってやってくださいまし。
松果 2008/01/21(Mon)10:59: 編集
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