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1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。 ちょいレトロ風味の魔法譚。
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 アトリエから出ると、廊下は秋の陽射しが斜めに差している。来客にお茶を出すという初めての“大役”を果たしたステファンは、盆を抱えてホゥとため息をついた。
 最近オーリは、夜も昼もなく絵の制作に没頭している。と共に、アトリエのお客も頻繁に来るようになった。オーリが今取り組んでいるあの大きな絵の出品について話し合うためだ。

「どうやら間に合いそうだね、ガルバイヤン」
 午後のアトリエでお茶を飲みながら、客人はホッとしたように言った。
 薄い金髪をきれいに撫でつけた頭で何度もうなずき、眼鏡の奥から灰色の目を輝かせてにオーリの絵を見ている。
「まだ八分がたってところですが。大丈夫、ちゃんと仕上げるから」
「今回は店の展覧会とはわけが違う。アート・ヴィエーク主催といえば海外からも目の肥えたお客が集まるからね。うちのブースの目玉にしたいんだ」
 立ち上がり、正面からしげしげと絵をみていた客人はオーリを振り返った。
「それにしてもだ。作風が変わったのは仕方ないとして、なんで名前まで変えたかね。十代の頃本名で描いてた時は天才児とか騒がれてたのに、みすみす看板を架け替えるようなもの……あ、いやその」
 水色の目が不愉快そうにこちらを向いたのを見て、客人は慌てて話題を変えた。
「相変わらず描き始めると早いな。もっとも取り掛かるまでが遅くていつもハラハラさせられるが」
「早くないですよ。昔の聖堂で壁画を描いてた絵師達の仕事はこんなものじゃなかったはずだ」
 オーリは遠い目をしてカンバスを見上げた。
「壁画、か。なるほどそんな雰囲気もあるなあ。これはいいよ、ガルバイヤン。竜人というモチーフもいい。他の画家には悪いが、今回の展示の中では群を抜いて高額がつけられると思うね」 
「どうかな、流行の抽象画ならともかく……まあ値段の話はあんたに任せますよ、キアンさん。わたしはただ、一人でも多くの人にこの絵で訴えたいだけだから」
 腕組みをして立つオーリの銀髪は伸び、無造作に束ねられている。絵の具だらけの襟の上では、顎の周りに無精ひげすら見える。けれど水色の目はそれ自体が発光しているのではないかと思えるほど強い輝きを放っていた。
「いい顔になったな、魔法使いくん。すっかり“戦う芸術家”の風貌だ」
 キアンと呼ばれた壮年の来客は、画家の横顔を見ながら愉快そうに笑った。
 
 
 ステファンは一階に降りると、思い切り背伸びをした。
 今日は、マーシャもエレインも出掛けている。お茶の淹れ方だけは教わっていたものの、なんだか緊張して疲れた。難しい顔で仕事の話をしている時のオーリは近寄りがたい。いつもエレインやステファンと冗談を言い合っている時とは別人かとさえ思ってしまうほどだ。
「大人の話には口をはさんじゃいけないし。子どもってつまんないや」
 ステファンはキッチンに盆を放り出し、クッキー入れはどこかな、と戸棚を探し始めた。
 戸棚の中は、マーシャが作り置きしたジャムの瓶やクッキー缶がきちんと並んでいる。これが近所でも結構評判らしく、今日もマーシャは近所のおかみさん達の集まりに招かれて行ったのだ。
「あー、いっけないんだ、つまみ食い」
 いつの間に帰ったのか、エレインがからかうように言いながら顔を覗かせた。
「遅いよエレイン。先生のところにお客さんが来てるんだ。お茶はなんとか出したけど、カップなんてどれを使ったらいいかわかんないし、ぼく一人で困っちゃったじゃないか」
「で、クッキーも出すの? どんなお客?」
「ええと……このごろよく来てる、なんとかいう画廊のメガネの人」
「画廊?」
 エレインは眉を上げて少し考えたが、すぐに笑い出した。
「ああ、サウラー画廊のキアンっておじさんでしょ。クッキーもジャムも要らないわよ、あの人お砂糖がダメらしいから」
「へえ、そうなんだ」
 ステファンは半ばホッとして、改めてクッキー缶を取り出した。
「じゃ、おやつにしようっと。マーシャがね、青い缶のは家族用だから食べていいって言ってたよ。エレインも食べる?」
「もちろん」
 もうすっかり人間の食べ物――といってもお菓子だけだが――に慣れたエレインは、缶の蓋を取ろうとしてピクと耳を動かした。
「――オーリが何か変」
「え?」
 ステファンが聞き返す頃には、エレインは階段を駆け上がっていた。

「そんなばかな!」
 廊下にまで響くのは、ひどく怒ったようなオーリの声だ。
 アトリエの椅子では、キアンが困惑したような顔で座っている。
「悪い話ではないと思うが。何か問題でもあるのかね?」
「おお有りだ。なんでカニス卿の名前がそこで出てくるんです!」
「オーリ、火花」
 エレインに注意されて、オーリは背中で散っていた青白い火花を消した。
「ごめんねキアンさん、普通の人から見たら、魔法使いの出す火花って怖いわよね。で、カニス卿って誰?」
「これはエレイン嬢。いや、ガルバイヤンの絵を気に入ってくれたらしくてね、今後出資者になってもいいと名乗りを上げた人のことだよ」
「カニスって、前に駅で竜人をいじめてた人だよね」
 ぼそっとつぶやいたステファンの言葉に、エレインが顔色を変えた。
 オーリはたしなめるような目を向けたが、仕方ないな、と言って駅やパーティーでのいきさつを説明した。
「なるほど、君とは個人的な因縁あり、というわけだ。出資の話は何か魂胆がありそうだな」
 キアンは面白そうにオーリの表情を伺っている。
「魂胆もなにも、嫌味に決まってるじゃないですか。早速カネの力を見せつけようというわけだ」
「当然君は断るだろうから、その次の手も考えているんだろうな」
「まさか出品の妨害をするとか?」
「いや、わたしなら君の絵を独占的に買い占めた上で今後の作品発表の場を奪うことを考えるだろうな。そうすれば絵の値段は吊りあがり、ガルバイヤンという絵描きを屈服させることもできる。一石二鳥だ」
「……恐ろしいことをさらりと言わないでくださいよ。出品したくなくなってきた」
 頭を抱えるオーリの横で、さっきから黙って聞いていたエレインが口を開いた。
「いいえ、むしろ出すべきだわ」
 緑色の目は鋭いままでオーリのほうに向き直る。
「オーリ、画家には画家の戦い方があるのよね? あたしは絵の事は解らないけど、戦いなら絶対にしちゃいけないことがあるわ。“敵前逃亡”よ」
 オーリが驚いたように目を見開いて、ごくりと唾を飲み込む音がステファンにも聞こえた。
「君らしい考えだなエレイン――いや待てよ」
 しばらく考えていたオーリは、顔を上げて絵をみつめた。
「守護者どのの言うとおりだ。戦う方法は確かにまだあったな。正攻法かどうかは知らないが」
「おいおい! まさかカニスと魔法合戦でもしようなんていうんじゃないだろうな。うちも商売だ、お得意さんを怒らせてもらっちゃ困るよ」
 キアンの心配を打ち消すように、オーリはニヤリと笑ってみせた。
「大丈夫、ちゃんと画廊には儲けてもらいますよ。カニス卿に伝えてください。お近付きのしるしに今回の作品には卿の顔を描き入れさせてもらう、とね」

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おお~(@∇@)
なんだか、わくわくしてきましたよ!!
そうそう、あのカニスをしっかり懲らしめてやらなきゃ~!!
絵描きとしてのオーリ、かっこいいなぁ~♪
楽しみ、楽しみ♪

サイト見ました♪
イラストをご紹介くださって…どきどき♪
松果さんの兄弟のイラスト、かわいかった!ホントに絵本になりそうな雰囲気がいいです~♪
らんらら URL 2008/06/17(Tue)08:43: 編集
ありがと~!
あはは、十章に入ってもうお話としては収束しなきゃいけないんですけどね。また新キャラ出して、どこまで引き伸ばすんだか(笑)
だってねー、エレインのためにも、あの憎ったらしいカニスと決着つけなきゃねー。
オーリ、かっこいい?良かった(ホッ)
無精ひげ生やしたりして、ちょっとキャラ壊しちゃったかなと心配してたんだけど。

サイト見てくれたのね。FC2とどっちにしようか迷ったけど、結局ニンジャの簡単HP作成ツールに頼って作ってしまいました。
今はまだ内容が薄くて恥ずかしい限りだけど、このブログ小説が完結したら、再編集して全文移そうかなーとか(いや、面倒だ)
当分試行錯誤して、じたばたしてると思います。
松果 URL 2008/06/17(Tue)16:18: 編集
おお~!!!
企んでる、企んでる♪
ほんっと、カニスは爽快にやっつけてもらいたいっ!!
スカッとしたいもの。

うふ。
どんな決戦になるのかな?
なんか、わくわくしてきた~!!!
ミナモ URL 2008/09/23(Tue)21:50: 編集
今にして思えば
カニスのおっさんはおいしいキャラだった(笑
いやー、書いてて楽しいんだもん、悪役って。
だからもうちょい登場させて、オーリをいたぶってれば…(←何考えてんだ)
松果 2008/09/24(Wed)00:24: 編集
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趣味で始めたはずの小説にはまってしまった物書き初心者。ちょいレトロなものが好き。ラノベほど軽くはなく、けれど小学生も楽しめる文章を、と心がけています。
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