1950年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。
ちょいレトロ風味の魔法譚。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
それから一時間のうちに、オーリはすべての手はずを整えた。
ステファンの通う初等教育校への提出書類、役所関係、ウィッチ&ウィザードユニオンへの宣誓書……オーリが指をはじく度に次から次へと書類がテーブルに現れるのを、ミレイユはぼうっとした顔で見守った。
「こちらに最後のサインを……結構。ステファンの教育課程は引き継がれます。来年の七月までうちで真面目に学べば一般の初等教育終了証書が発行されますのでご心配なく。それともステファン、学校の友達と離れるのは残念かな?」
ステファンは急いで首を横に振った。残念がるどころか、学校と聞いただけで怯えたような表情を見せたのを見て、オーリは苦笑した。
「じゃあ夕方の列車に間に合うように行こう。ステファン、荷物をまとめておいで」
ミレイユはようやく焦った顔を見せた。
「先生? ステファンをこのままお連れになるんですの? 待って、いろいろと支度が……」
「善は急げ、ですよ。何、特別な支度など要りません」
オーリは余計な時間をかけるつもりはなかった。今、ステファンの母親はオーリの魔法の影響で舞い上がっている。一気に事を運ばねば。ここで日数をおいて、冷静になる時間など与えてはいけない。
「それにわたしも忙しい身でね。また次いつ来られるかわかりませんので。九月になって学年が変わってからでは、手続きがいろいろと面倒でしょう? ああそれから」
オーリはミレイユを振り返った。
「オスカーのコレクションのことですが、うちで契約している一番大きな保管庫を無償で提供させていただきますよ。ご連絡いただければいつでも、使いの者に搬出に伺わせます」
「無償」という言葉に反応したミレイユの表情を見て、オーリはやれやれと思った。コレクションなんてものは、そういうものだ。蒐集している本人にとっては宝の山だが、興味の無い家族にとっては邪魔なガラクタの山。まして二束三文と言われたのだから、置いておくスペースすらもったいないと思われてもしょうがないだろう。
嵐のような勢いで出発の支度を終えると、ステファンが古いトランクを引きずって玄関に下りてきた。
「ま、そんな古いトランクを。もっと他にあるでしょう?」
「お父さんのだよ。ぼく、どうしてもこれを持っていきたいんだ」
「ま……」
ミレイユは灰色の目を大きく見開き、独り言のようにつぶやいた。
「この子が言い張るのを初めて聞きましたわ……!」
雨はすでに小降りになっている。葡萄畑の向こうから、一台の黒い車がこちらに向かって来る。
「迎えが来たようです。ステファン、お母様にしっかりお別れを。当分会えないのだからね」
ミレイユは、それこそ「しっかり」と息子を抱きしめてあれこれ言い聞かせたが、ステファンは儀礼的にキスを返しただけで、さっさと車に駆け寄って、嬉しそうに叫んだ。
「じゃ、行ってきます!」
↑ランキング参加しています 。応援していただけると励みになります。
ステファンの通う初等教育校への提出書類、役所関係、ウィッチ&ウィザードユニオンへの宣誓書……オーリが指をはじく度に次から次へと書類がテーブルに現れるのを、ミレイユはぼうっとした顔で見守った。
「こちらに最後のサインを……結構。ステファンの教育課程は引き継がれます。来年の七月までうちで真面目に学べば一般の初等教育終了証書が発行されますのでご心配なく。それともステファン、学校の友達と離れるのは残念かな?」
ステファンは急いで首を横に振った。残念がるどころか、学校と聞いただけで怯えたような表情を見せたのを見て、オーリは苦笑した。
「じゃあ夕方の列車に間に合うように行こう。ステファン、荷物をまとめておいで」
ミレイユはようやく焦った顔を見せた。
「先生? ステファンをこのままお連れになるんですの? 待って、いろいろと支度が……」
「善は急げ、ですよ。何、特別な支度など要りません」
オーリは余計な時間をかけるつもりはなかった。今、ステファンの母親はオーリの魔法の影響で舞い上がっている。一気に事を運ばねば。ここで日数をおいて、冷静になる時間など与えてはいけない。
「それにわたしも忙しい身でね。また次いつ来られるかわかりませんので。九月になって学年が変わってからでは、手続きがいろいろと面倒でしょう? ああそれから」
オーリはミレイユを振り返った。
「オスカーのコレクションのことですが、うちで契約している一番大きな保管庫を無償で提供させていただきますよ。ご連絡いただければいつでも、使いの者に搬出に伺わせます」
「無償」という言葉に反応したミレイユの表情を見て、オーリはやれやれと思った。コレクションなんてものは、そういうものだ。蒐集している本人にとっては宝の山だが、興味の無い家族にとっては邪魔なガラクタの山。まして二束三文と言われたのだから、置いておくスペースすらもったいないと思われてもしょうがないだろう。
嵐のような勢いで出発の支度を終えると、ステファンが古いトランクを引きずって玄関に下りてきた。
「ま、そんな古いトランクを。もっと他にあるでしょう?」
「お父さんのだよ。ぼく、どうしてもこれを持っていきたいんだ」
「ま……」
ミレイユは灰色の目を大きく見開き、独り言のようにつぶやいた。
「この子が言い張るのを初めて聞きましたわ……!」
雨はすでに小降りになっている。葡萄畑の向こうから、一台の黒い車がこちらに向かって来る。
「迎えが来たようです。ステファン、お母様にしっかりお別れを。当分会えないのだからね」
ミレイユは、それこそ「しっかり」と息子を抱きしめてあれこれ言い聞かせたが、ステファンは儀礼的にキスを返しただけで、さっさと車に駆け寄って、嬉しそうに叫んだ。
「じゃ、行ってきます!」
↑ランキング参加しています 。応援していただけると励みになります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
登場人物の視点をあっちこっちに移動してしまったために、
非常に読みづらい文章になったのではと反省しきりです。
後日、できるだけ修整しましたが、そうなると今度は、
不自然で持って回ったような表現になったり……
ええい、今後の宿題だ!と開き直りまして。
次話からはステファンの視点に落ち着きますので。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
登場人物の視点をあっちこっちに移動してしまったために、
非常に読みづらい文章になったのではと反省しきりです。
後日、できるだけ修整しましたが、そうなると今度は、
不自然で持って回ったような表現になったり……
ええい、今後の宿題だ!と開き直りまして。
次話からはステファンの視点に落ち着きますので。
PR