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  <title>２０世紀ウィザード異聞</title>
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  <description>１９５０年代の欧州風架空世界を舞台にしたファンタジー小説です。
ちょいレトロ風味の魔法譚。

  
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  <lastBuildDate>Fri, 19 Mar 2010 00:40:33 GMT</lastBuildDate>
  <language>ja</language>
  <copyright>© Ninja Tools Inc.</copyright>
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    <title>姉妹編もがんばってます</title>
    <description>
    <![CDATA[長く放置気味なので、ここらでお知らせを。<br />
<br />
「２０世紀ウィザード異聞」と同じ登場人物によるもうひとつのお話、<br />
「オーリローリ（シリーズ）」を本館サイト「pinetreeの丘で」に置いています。<br />
現在、第一部改稿中、第二部完結、第三部がまたまた連載中という、中途半端な状態で申し訳ないです。<br />
せめて第一部は完結させるように頑張りまーす！]]>
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    <category>松果よりお知らせ</category>
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    <pubDate>Fri, 19 Mar 2010 00:56:23 GMT</pubDate>
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    <title>結果報告</title>
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    <![CDATA[HP版のほうでエントリーしていましたアルファポリスファンタジー小説大賞ですが、先日（１０/15）結果発表がありました。<br />
残念ながら（というか予想通り）拙作「２０世紀ウィザード異聞」は選外、ハシにも棒にも引っかかりませんでした。<br />
でも良い勉強になったと思います。また、多くの方の応援を頂いたことに大変感謝しております。<br />
<br />
楽しいお祭り（ファンタジー大賞）が終わって作者はちょっと一息入れています。<br />
今後、番外編などの形で短編を書き続けたいなぁ～と目論んでいますので。<br />
<br />
忘れた頃にどこかでまたステファンやオーリの名前を見かけたら、応援してやってくださいね。<br />
ではまた。<br />]]>
    </description>
    <category>松果よりお知らせ</category>
    <link>https://oliroli.blog.shinobi.jp/%E6%9D%BE%E6%9E%9C%E3%82%88%E3%82%8A%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B/%E7%B5%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A</link>
    <pubDate>Fri, 17 Oct 2008 04:43:42 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>更新お知らせ～感謝を込めて！</title>
    <description>
    <![CDATA[アルファポリス<a href="http://www.alphapolis.co.jp/citi_cont_prize_kaisai.php"><font color="#0000ff">「ファンタジー小説大賞」</font></a>に登録しているＨＰ版ですが、<br />
お陰さまで多くの方に読んでいただきながら完結しました。<br />
現在ランキング２ページ目の下の方に居ますが、順位うんぬんよりも<br />
この<a href="http://karamatu.web.fc2.com/noveltop/novelwizard/wizmokuji.html"><font color="#0000ff">「２０世紀ウィザード異聞」</font></a>が今までになく大勢の方に読まれているな～ということが、素直に嬉しいのです。まるでわが子の運動会を観てるみたい（親バカ）<br />
<br />
応援のクリックをしてくださった方に御礼申し上げます。<br />
投票は九月いっぱいまでですので、まだポチってやるよ！という方がいたら嬉しいなあ。<br />
詳しい投票ルールは<a href="http://www.alphapolis.co.jp/citi_cont_prize_expl_vo.php"><font color="#0000ff">こちら</font></a><br />
<br />
番外編<a href="http://galviyan.blog.shinobi.jp/Entry/1"><font color="#ff6600">「竜王の愛娘」</font></a>も最終話更新。これで完結です。<br />
<br />
結局最後はオーリの変人ぶりを書いたオバカ話で終わりましたが、<br />
お楽しみいただけたでしょうか。<br />
<br />
さて、しばらくブログ小説はお休みしますので、今後は<a href="http://aury.blog39.fc2.com/"><font color="#99cc00">「木陰でお茶を」</font></a>のほうでたまーにぶつくさ雑談していきます。まだ続編や番外編を書きたい思いはあるんですが。いつになるかは不明です。<br />
<font color="#99cc00"><a href="http://ncode.syosetu.com/n2219d/">「オーリローリ」</a></font>のほうはあと数話でステファン十歳編を終わらせようと目論んでます。<br />
なにせ私生活が忙しくなりましたので、カメ更新です。<br />
気長にお付き合いくださいませ。<br />
<br />
&rarr;<a href="http://galviyan.blog.shinobi.jp/Entry/7/"><font color="#ff6600">では最終話へＧＯ！</font></a>]]>
    </description>
    <category>小説　</category>
    <link>https://oliroli.blog.shinobi.jp/%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E3%80%80/%E6%9B%B4%E6%96%B0%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B%EF%BD%9E%E6%84%9F%E8%AC%9D%E3%82%92%E8%BE%BC%E3%82%81%E3%81%A6%EF%BC%81</link>
    <pubDate>Fri, 19 Sep 2008 22:14:08 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>更新のお知らせ</title>
    <description>
    <![CDATA[番外編「<a href="http://galviyan.blog.shinobi.jp/Entry/6/">竜王の愛娘」四話</a>を更新しました。<br />
<br />
作者の趣味全開です。カミナリネタです。<br />
前回までの雰囲気はどこへやら、そういうオチかい！って叱られそうですが。<br />
まだあと１話ありますので見捨てないで～<br />
　　&darr;<br />
　<a href="http://galviyan.blog.shinobi.jp/Entry1/">作品ページへＧＯ！</a><br />]]>
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    <category>松果よりお知らせ</category>
    <link>https://oliroli.blog.shinobi.jp/%E6%9D%BE%E6%9E%9C%E3%82%88%E3%82%8A%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B/%E6%9B%B4%E6%96%B0%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B</link>
    <pubDate>Tue, 16 Sep 2008 23:51:38 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>更新お知らせ</title>
    <description>
    <![CDATA[番外編<a href="http://galviyan.blog.shinobi.jp/Entry/3/">「竜王の愛娘」３話</a>更新しました。<br />
<br />
なんつーかもう&hellip;&hellip;エレインのヤバさ加減ＭＡＸです。<br />
怖いよ～怖いよ～というオーリの悲鳴が聞こえそう（笑<br />
感想をお待ちしております。<br />
<br />
　　&rarr;<a href="http://galviyan.blog.shinobi.jp/">作品ページへＧＯ</a>！]]>
    </description>
    <category>松果よりお知らせ</category>
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    <pubDate>Fri, 12 Sep 2008 00:21:14 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>更新お知らせ</title>
    <description>
    <![CDATA[番外編　<a href="http://galviyan.blog.shinobi.jp/"><font color="#ff6600">「竜王の愛娘」</font></a>　２話を、ちょっと予定より早く更新しました。<br />
<br />
オーリがエレインと契約する経緯をさらっと書いたりしてます。<br />
結構屈折してたんだねオーリ。<br />
<br />
あいたたた&hellip;&hellip;はっきり言ってベタ展開です。<br />
加筆したけど、やっぱりベタです。まあいいや。<br />
今回登場する水魔は、ロシアの伝説に出てくる奴をちょこっとアレンジしました。<br />
分かる人には元ネタが分かってしまうという&hellip;&hellip;<br />
<br />
ご感想、お待ちしております。&rarr;<font color="#ff6600">　</font><a href="http://番・外・編！ 竜王の愛娘　２"><font color="#ff6600">作品ページへＧＯ！</font></a>]]>
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    <category>松果よりお知らせ</category>
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    <pubDate>Mon, 08 Sep 2008 11:32:43 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>そろそろ</title>
    <description>
    <![CDATA[本編が完結して、しばらく充電しておりました。<br />
<br />
さーてそろそろ番外編を&hellip;&hellip;と思ったんですが、<br />
「オーリローリ」も連載再開したし、<br />
アルファポリスに登録したHPのほうも手を加えなきゃだし。<br />
<br />
でも、新たにプロット練ったりする時間がないので。<br />
恥ずかしい～過去作品を持ってきました。<br />
<br />
「竜王の愛娘（まなむすめ）」えーと、４～５話の中篇くらいかな。<br />
なにせ本編を書き始めた昨年にお遊び気分で書いてたもので、<br />
文章は稚拙だわ、設定に無理があるわ、読み返すと赤面ものですがね。<br />
書くことが楽しくてならなかった頃の勢いみたいなものが感じられる文章だと思うので、<br />
これも「松果」の成長途上の記録として、恥を忍んで公開します。<br />
本編が重いテーマを扱ってたのに比べて、番外編はゆるーく力が抜けたラブコメ調でしょうか。<br />
とはいえ、やっぱり甘あまにはならないですね、私が書くと。<br />
恋愛描写は苦手ですっ（開き直り）<br />
<br />
では番外編をどうぞお楽しみください&rarr;「<a href="http://galviyan.blog.shinobi.jp/"><font color="#ff6600">竜王の愛娘</font></a>」<br />
<br />
<a href="http://novel.blogmura.com/novel_fantasy/"><img height="15" alt="にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ" width="80" border="0" src="http://novel.blogmura.com/novel_fantasy/img/novel_fantasy80_15.gif" /></a>&nbsp;<br />
<font face="Verdana" size="2"><font face="Arial">&uarr;</font>読んでいただいてありがとうございます。応援していただけると励みになります。</font><br />]]>
    </description>
    <category>松果よりお知らせ</category>
    <link>https://oliroli.blog.shinobi.jp/%E6%9D%BE%E6%9E%9C%E3%82%88%E3%82%8A%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B/%E3%81%9D%E3%82%8D%E3%81%9D%E3%82%8D</link>
    <pubDate>Wed, 03 Sep 2008 23:37:29 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>あと書き</title>
    <description>
    <![CDATA[　「２０世紀ウィザード異聞」無事に完結しました。<br />
NEWVELLIBRARYにほぼ同じ内容を投稿していますので総文字数を見ると、<br />
　「１７４２３３文字」　原稿用紙だと、４３５枚以上ってか&hellip;&hellip;<br />
昨年秋にブログで連載を始めた頃には、こんなに長く書く予定じゃなかったんですが。<br />
一気読みするのはちと大変です。<br />
よろしかったらＨＰのほうで少しずつ載せていますので、そちらでもどうぞ。<br />
<br />
書き終わってみて悔いがないかといえば<br />
<br />
そんなはずあるわけないっ！<br />
あーんなとこやこーんなとこ、今すぐにでも書き直したいっ！<br />
<br />
という、いつものビョーキが出そう。<br />
文章の稚拙さは言うまでもなく、言葉の選び方間違ってるんとちゃう？とかー、<br />
くどい！　話をもっと整理せい！　とかー、<br />
逆に、これじゃなんのこっちゃらわからん、説明不足やろーとか。<br />
まあツッコミの嵐が自分の中に吹き荒れておるわけで。<br />
特にエピローグは早く終わらせようという魂胆がみえみえで、<br />
オスカーが帰ってくるために必要な「条件」とやら、あっさり種明かししすぎたかなと。<br />
どうせならもっと前に「条件」を謎かけとして提示しておいて、<br />
その謎解き話で進めれば面白かったんではないかと。<br />
ま、今は書き直す時間もなし、ＨＰに載せる段階でまた手を入れることになるでしょう。<br />
<br />
いずれにせよ、「松果」の長編処女作としてはなんとか形になったので、ホッと胸をなでおろしているところです。（短編童話のほうが先に書きあがったんだけど）<br />
<br />
一年近く続いた連載に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。<br />
皆さんの有形無形の励ましが大きな力となりました。<br />
しばらく日数を置いて、また番外編など書きたいと思いますので、<br />
その時はまた楽しんでいただけたらと思います。<br />
<br />
　　松果]]>
    </description>
    <category>小説　</category>
    <link>https://oliroli.blog.shinobi.jp/%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E3%80%80/%E3%81%82%E3%81%A8%E6%9B%B8%E3%81%8D</link>
    <pubDate>Thu, 21 Aug 2008 04:48:00 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>エピローグ　</title>
    <description>
    <![CDATA[　誰もが、聞きたいこと、話したいことを山ほど抱えていた。<br />
　そして誰もが我先にしゃべろうとしたので居間の中は騒然とし、ガートルードは何度も立ち上がり、厳しい声で場を収めねばならなかった。<br />
　オスカーがどこへ姿を消していたのか、から始まって、忘却の辞書のこと、あの気の毒なガーゴイルのこと、七月以来ステファンが遭遇したさまざまなこと。特にここ最近のオーリとステファンの奮闘ぶり、極めつけは&ldquo;声送り&rdquo;でステファンがやってみせた、無謀っぷり。<br />
　話の順番も何もあるものか、と皆が競ってしゃべるさまを、ミレイユはほとんど口を開けたままで聞いていた。無理もない。これまで魔法など頭から否定してきたというのに、この場に飛び交う言葉のほとんどは彼女の誇る&ldquo;常識&rdquo;の範疇を超えているのだから。　<br />
　そんな母を半ば気の毒に思いながらも、ステファンは幸福だった。<br />
　暖かい部屋。薫り高いお茶とマーシャの焼きたてスコーンにたっぷりのジャム。　<br />
　オスカーに呆れながらも安心したように顔を見交わす、オーリとエレイン。二人を冷やかすユーリアン。ガートルードはじめ魔女達は、相変わらず威厳を保っているものの、彼女らが見かけよりずっと優しくて人が良いことにも気付いた。<br />
　そしてなによりも、今は傍に両親が居る。<br />
　ソファの右側に母が、左には父が。真ん中に座るステファンは満ち足りた顔で代わる代わる二人を見上げた。<br />
　そう、満ち足りている。けれど心の隅にほんの一点、まだ忘れ物をしているような気がしてならない。それが何だか分からず、ステファンは毛布からはみ出した足をぶらぶらさせた。　<br />
<br />
「みんなちょっと待った！　じゃあ、ひとつずつ疑問点を明らかにしていこうぜ。吊るし上げにされる覚悟はできてるか？　オスカー」<br />
　悪童のような顔で笑うユーリアンにオスカーは苦笑してうなずいた。<br />
「まずは君自身のことだ。これはオーリが言ってた事なんだが。オスカー、君には過去へ自由に旅をする能力があるんじゃないかってね。それは本当か？」<br />
「本当だ」<br />
「証明できるか？」<br />
「できないね」<br />
　あっさりと降参の仕草をして、オスカーは手を広げてみせた。<br />
「証拠の品がない。いくら過去をつぶさに観ることができても、その時代の物に触れたり手を加えたりするのはタブーだからね。木の葉一枚、石ころ一個、持ち帰れやしないんだ」<br />
「そうじゃ。異時間移動魔法における禁則というもんがある」<br />
　老魔女のひとり、リンマがぼそりとつぶやいてうなずいた。<br />
「まあ、時間を遡るなんて自然の理に反することなんだから当然だろうけど。なんとか証拠を、と思ってカメラを持って行ったこともあるんだがなあ。フィルムには何も写ってはいなかったよ。遺跡の発掘チームに参加した時には定説を否定するようなことばかり主張するから、よく仲間に言われたもんだ、。オスカー・ペリエリ、お前の説は面白いが荒唐無稽だってね。悔しいが、僕の説を証明するような出土品はあまり見つからないから。貴重な遺跡が埋もれているはずの場所が地雷原になっていて、調査どころじゃなかったこともあったな&hellip;&hellip;」<br />
「証明などできなくても、オスカーに力があることは信じるよ。だが忘却の辞書を使った事情やあんな手紙を残したいきさつは説明してもらいたいね」<br />
　オーリが水色の目をじろりと向けた。まだ少し怒っているようだ。<br />
「こいつは拗ねているのさ。そんな面白い魔法を使うんならなぜ事前に教えてくれなかったのかってね」<br />
　ユーリアンは茶化すようにオーリを見やり、それから真顔になってオスカーに向き直った。<br />
「で、どうなんだ。本当に、手紙を出したのは十二月で、その後十一月に戻ったのか？」<br />
「いや、手紙を出したのは最後だ。あの紙を切り取った時点で辞書の魔力が溢れ出すのは知ってるね。だから十一月の聖花火祭の夜に辞書を使い、翌日に手紙を書いて、僕は旅立ったんだ」<br />
「旅立ったって、あのトランクの中から？　だから、誰もお父さんが出て行ったのに気付かなかったんだ」<br />
　ステファンは今さらのように、自分があの古いトランクを持っていきたい、と言い張った時のことを思い出して複雑な気分になった。<br />
「でもガーゴイルが手紙を届けたのは十二月。なぜ一ヶ月も空白があった？」<br />
「ひとつには、隠しておく為。なにせこっちは魔法道具の使い手としてはルール違反をしてるんだから。&ldquo;魔法監理機構&rdquo;にでも知られたら、手紙まで取り上げられかねない。それじゃ困るんだ」<br />
「カンリなんとかって？」<br />
「魔法使いや魔女にだってね、秩序はあるんだよステフ。いろいろ禁則を設けてるし、違反すれば罰も受けなきゃいけない」<br />
　ステファンに簡単な説明をして、オーリは難しい顔をした。<br />
「ルール違反って。何をやらかした、オスカー」<br />
「うん、まあ。正直に言うとね、辞書を使ったのは一度だけじゃない。何度か過去に戻って、書き込んではやり直し、を繰り返したんだ」<br />
　唖然とする一同の前で、オスカーは悪戯を告白する子どものような顔をした。<br />
「なんと、オスカー・ペリエリ！　わかっとるのかえ？　忘却の辞書に書き込めるのは、一人につき一項目だけじゃぞい」<br />
「それなのに過去に戻って何度も書き直した？　なんたることよ、辞書の禁則と時間の禁則、両方を破ったことになるわえ。監理機構に知られずとも懲罰もんじゃ！」<br />
　タマーラとゾーヤが皺に埋もれた目をひんむいて非難がましい声をあげた。<br />
「わかってますよ魔女さん。だから罰は甘んじて受けたんだ」<br />
「罰って&hellip;&hellip;二年間、この世界から消えちゃうってこと？」<br />
　父と再会した場所――灰色の濃い霧に閉じ込められたような世界を思い出しながら、ステファンは恐る恐る口を開いた。<br />
「島流しのようなもんよの。&ldquo;シムルゥの間隙&rdquo;というてな、この世とあの世の境にある世界よ」<br />
「そこではあらゆる時間を行き来することができるが、自分の時間は流れぬ。意識はあるが、誰とも言葉を交わせず、働きかけることもできぬ。というて死ぬこともできず、まあ生きながら幽霊になるようなもんだわ。普通は一年と待たず精神（こころ）が壊れてしまうもんだがのう。まともに生きて帰る者は稀じゃわえ」<br />
　魔女たちが歯の無い口で説明するのに割り込んで、オーリが身を乗り出した。<br />
「そうだ、どうやって帰ってこれたんだ？　あの十二本の罫線は、やはり何かの時限魔法なのか？」<br />
「条件付き時限魔法、ってやつかな。古書の中で偶然見つけた、まあ抜け道のような方法だ。&ldquo;外なる鍵と内なる鍵、十二の魔の目といまだ開かざる魔の目、そして五つの十二の重なる時&rdquo;これらの条件がすべて満たされなければならないんだから、ほとんど成功するとは思わなかったけど。いわば、賭けのようなものだな」<br />
「なんだって？　まてまて、これは謎かけだ。解いてやるからまだ答えを明かすなよ、オスカー」<br />
　新しい遊びでもみつけたように目を輝かせて、ユーリアンがメモを取り出した。<br />
「&ldquo;十二の魔の目&rdquo;というのは解りやすいな。あの辞書と手紙の謎解きに関わった六人の魔法使いと魔女のことだ。僕、トーニャ、オーリ、ステファン、ソロフ師匠に、大叔父様か」<br />
　指を折りながら数えるユーリアンの横で、オーリが考え込んだ。<br />
「いまだ開かざる魔の目、とは？」<br />
「トーニャのベビー。そうでしょ？」<br />
　こともなげにエレインが答えた。<br />
「エレイン、そうだよ！　なぜ解ったんだ？」<br />
「普通、そう思うわよ。お腹の中でまだ目を開いていない、でもすでに魔力があるから魔の目、ってことでしょ」<br />
「女性の勘ってのは、時々恐ろしくなる&hellip;&hellip;」<br />
　頭を抱えるオーリには構わず、ユーリアンはメモを取り続けた。<br />
「&ldquo;五つの十二&rdquo;これも解り易い。十二月十二日、十二時十二分。ええと、秒数まで指定してたとすれば&hellip;&hellip;」<br />
「いや、まさかそこまではね。トランクから出るまでだって何秒かかかるんだから」<br />
「十二年目」<br />
　ミレイユが小声でつぶやいた。<br />
「なにがです？」<br />
「今日は&hellip;&hellip;その、十二回目の記念日、なんですわ。オスカーと、あたくしの&hellip;&hellip;」<br />
「あ、結婚記念日だ！　そうだよね、お父さん」<br />
　オスカーはうなずき、赤い顔でそっぽを向いたミレイユを見つめた。<br />
「覚えていてくれたとはね、ミレイユ」<br />
「あ、当たり前ですわ！　あなたこそ、とうに忘れていらっしゃったんじゃなくて？」<br />
　オホン、と咳払いをして笑いをこらえながら、ユーリアンが続ける。<br />
「じゃあ、最初の条件。これは難題だ。&ldquo;外なる鍵と内なる鍵&rdquo;なんだろうな&hellip;&hellip;」<br />
「ぼく解るよ。それ、お母さんと僕で同じ夢を見て辞書の魔法を解いちゃったことだ」<br />
「正解。なんだ、みんな簡単に解いちゃうんだな」<br />
　ポン、ポン、とオスカーが手を叩いた。<br />
「なぁる&hellip;&hellip;魔力の無いミレイユさんは&ldquo;外なる鍵&rdquo;、ステファンが&ldquo;内なる鍵&rdquo;というわけか」<br />
「冗談じゃありませんわ」<br />
　ミレイユは細い眉をしかめて、とうに冷めてしまったお茶を無意味にかき回した。<br />
<br />
「でも、おかしいな」<br />
　ステファンは首を傾げた。<br />
「なぜぼくは簡単にお父さんに会えたんだろう。誰とも言葉を交わせない場所だったんでしょう？　でもぼくは普通にお父さんと話せたよ。それに&hellip;&hellip;」<br />
　怒りに任せて父をさんざん叩いた、とは言わず口の中でゴニョゴニョとごまかした。<br />
「どこでオスカーに会ったって？」<br />
「あの、さっき目が覚める前に、夢の中で」<br />
　答えながらステファンは自分の言葉の矛盾に気付いた。そう、&ldquo;夢の中&rdquo;だったのだ。実際に父と会話したり、触れたりしたわけではない。<br />
「お父さん。お父さんからぼくはどんな風に見えてたの？　声は聞こえてたよね？」<br />
「ちゃんと聞こえてたよ。姿も見えたし、ポカポカ叩かれた時は痛かった」<br />
「まああっ、お父さんにそんなことをしたの？」<br />
　咎められてステファンは首をすくめたが、ミレイユはそれ以上叱るわけでもなく、気持ちは分かるわ、とつぶやいて頭を撫でてくれた。<br />
「先生、あれって同調魔法みたいなもの？」<br />
「いや。君はエレインの声と同調するうちに意識が深く沈んでしまって、ほとんど死に近い場所に居たんだ。きっとそのためにオスカーの居た&ldquo;シムルゥの間隙&rdquo;に入り込んでしまったんだと思うよ。でもそれは、同調魔法とは似て非なるものだ。前に君は、ソロフ師匠の&ldquo;童心&rdquo;に会って声や触感まで現実のように感じ取っただろう。今回はおそらくその逆のことが起こったんだと思う。――まあ、勝手な推論だが」<br />
　ふーっとため息をついて、ユーリアンが呆れたように椅子にもたれた。<br />
「なんともはや、君ら親子ときたら、とてつもないな！」<br />
「まあまあ、難しいお話だこと。それよりお茶のお代わりはいかが」<br />
　マーシャが熱いお茶を勧めて回った。<br />
「親子なんてね、そんなものでございますよ。魔法なんて使わなくても、心を通わせようと強く思えばちゃあんと繋がるもんです。そうでございましょ、ミレイユ様」<br />
　突然話をふられて、ミレイユは慌てて咳払いをした。<br />
「そ、そうですわね。前にステファンが手紙で教えてくれましたわ。あたくしが夢で見たのと同じ光景を見たと。そのおかげであたくしは、ウルリク兄さんのことを思い出し&hellip;&hellip;そうだわ、オスカー！」<br />
　厳しい声で呼ばれて、オスカーは姿勢を正した。<br />
「ステファンが教えてくれましたわ、あなたって人はよくもまあ！　無断で人の記憶を消すなんて失礼なこと！　そもそもあなたがそんな勝手なことをするから、こんな騒動が起きたんじゃありません？　反省なさってるの？」<br />
「お、お母さん。だってそれは、お母さんのために」<br />
「お黙りなさい、ステファン。だいたいねオスカー、あたくしはそんなに弱い人間ではありません。ウルリク兄さんのことだって、ちゃんと実家に行って話し合って&hellip;&hellip;話し合って&hellip;&hellip;」<br />
　赤い顔でまくし立てていた声が急にしぼみ、ミレイユは膝の上に視線を落とした。<br />
「あたくし&ldquo;生まれ変わり&rdquo;なんて信じませんけど。でもどうしても、ステファンを見る度、ウルリクの小さい頃と重ねずにはいられなくて、それが恐くて。けどこの前実家に行って写真を見たら、思っていたほど二人は似ていなかったわ。そうよね、もともと違う人間なのだから。あたくしが勝手に息子と兄のイメージを結び付けてただけだと気付きましたの。だから&hellip;&hellip;」<br />
　おろおろしているステファンの顔をなでて、ミレイユは苦い微笑を浮かべた。<br />
「あたくし、やっと分かりましたの。この子はステファン。ウルリクとは違って、ちゃんと成長して毎年祝福されながら誕生日を迎えられる子なんだって。七月にオーリ先生が迎えにきてくれて良かったわ。でなければ、あたくしは自分の息子の心をを押しつぶしていたかもしれない」<br />
「そう思うなら感謝するべきですよ、オスカーの無謀な行動に」<br />
　オーリの言葉に眉をそびやかして、ミレイユは顔を上げた。<br />
「ええ、感謝ならもうとうに。オスカー、あなたおっしゃったんですってね、&ldquo;自分の幸せのために生きて欲しい&rdquo;って。ではあたくし、その言葉通りにさせていただきます。帰ったら、弁護士に会ってくださいますわね？」<br />
「お母さん&hellip;&hellip;」<br />
　一瞬、ステファンの目の前が真っ暗になった。そのまま椅子に深く沈み、強く目をつぶる。<br />
　そうなのだ。両親の離婚裁判という、現実が待っていた。<br />
　父が帰ってきたからといって、全て解決したわけじゃなかった。<br />
<br />
　目をつぶったまま、ステファンは震えた。<br />
　もしかして、全部夢だったのだろうか。<br />
　オーリローリという、不思議な魔法使いが自分を迎えに来たことも。<br />
　翼竜に乗って魔法使いの家に迎え入れられ、妖精や、神秘的な森や、アトリエの奇妙な連中に会ったことも。赤毛の心優しい竜人、エレインのことも。まがりなりにも魔法使いとして杖を持ち、そして父と再会できたことも。<br />
　みんな目を開けたら霧のように消え去って、誰かが冷たい声で告げるのだろうか、あれは子どもの見る夢だったんだよ、と。<br />
<br />
　バチバチバチッ！<br />
　頭の中に金色の火花が飛び、驚いてステファンは目を開いた。<br />
「目が、覚めたかい？」<br />
　額に指を向けたままで、水色の目が覗き込んでいた。<br />
「ステフ、君の手の中にあるものは何だ？　君はそれが、夢だと思うのか？」<br />
　言われるままに、自分の両手を見る。いつのまにか右手で母の手を、左手で父の手を、しっかりと握っていた。<br />
　おずおずと右を見る。うちの息子に何てことするのだと、ミレイユがオーリに抗議している。<br />
　左を見る。オスカーが、心配そうにステファンの顔をのぞきこんでいる。<br />
　視線をめぐらすと、オーリの肩越しにエレインの顔が、マーシャが、ユーリアンが。そして自分の治療に当たってくれた魔女たちが。<br />
「夢じゃない&hellip;&hellip;」<br />
「そうだ、君の手の中にあるもの、目に見えるもの、すべて現実だ。良くも悪くもね。不満かい？」<br />
　ステファンは顔をしっかりと上げ、オーリの目を見つめ返して答えた。<br />
「いいえ、先生」<br />
　そして両手に力を込めて言った。<br />
「お父さん、お母さん、続きは家に帰ってから、ゆっくり話し合おうよ。その代わり、大人の問題、とか言わないで。ぼくにだって、いっぱい言いたいことがあるんだ！」　<br />
<br />
＊　　＊　　＊　<br />
<br />
　田舎とはいえ、十二月のプラットホームは人や荷物がせわしなく行き交ってにぎやかだ。<br />
「どうしても杖は持って帰っちゃだめ？」<br />
　不満そうに口を尖らせて、ステファンがローブの裾を揺らした。<br />
「駄目だ。君はなんといってもまだ見習いなんだからね。杖の練習は、年が明けてから。それまでは魔法使いとしてではなく、ただの子どもとしてしっかり両親に甘えてくること。マーシャにも休暇を取ってもらっているんだから、年内は戻ってくるんじゃないよ、いいね」<br />
　オーリに頭をくしゃくしゃとされながら、ステファンはふと不安を顔に浮かべた。<br />
「もし、&ldquo;両親&rdquo;じゃなくなってしまったら？」<br />
「こら、今からそんな弱気でどうする。大丈夫だよ。二人の左手を見てごらん」<br />
　ステファンは振り返り、父と母それぞれの左手に、まだしっかりと指輪が光っているのを見とめた。<br />
「顔を上げるんだ、ステファン・ペリエリ。それに何があろうと、君がオスカーとミレイユの子どもだってことに変わりはないだろ？」<br />
「そうだよね！」<br />
　明るい顔で両親の元へ駆けていく後姿を見ながら、エレインがため息をついた。<br />
「人間ってややこしいのね」<br />
「ややこしいよ。愛想が尽きそう？」<br />
　ふふん、とはにかんだように笑って、エレインは裾の狭まったスカートを気にした。トーニャが贈ってくれたワイン色のペプラムスーツは、すんなりしたエレインの肢体にとても良く似合っている。<br />
「そうだ、一つ疑問が残ってるんだけど。オスカーはなぜ何度も辞書を使う必要があったの？　ミレイユの記憶を消すためだけなら、一度で良かったんじゃない？」<br />
　オーリは答えず、昨日オスカーに同じ事を問いただしたことを思い出した。あの時オスカーは言ったのだ。フィスス族が滅んだ原因のひとつは自分にもあるのではないかと。遺跡を発掘しながら偶然竜人の守り里を見つけたことを、同じチームの人間が発表してしまったことをずっと悔いている、と。その後オスカーが何のために、誰の記憶を消そうとして何度も辞書を書き直したのかは、訊かなかったが。<br />
「人間は、ややこしいんだよ」<br />
　それだけ言ってオーリがもう一度ペリエリ家の三人を見ると、目が合った途端ステファンがこちらに駆けて来た。そのまま右手をエレインに、左手をオーリに伸ばしてハグをする。<br />
「エレイン、もし先生とケンカしても、あの家を出ていっちゃダメだよ！　それから先生は、エレインをあんまり怒らせないで。今度また前みたいにケンカしたら、ぼくがエレインとケイヤクして守護者になってもらうんだからね！」<br />
　言いたいことを言ってしまうと、照れたようにきびすを返して、ステファンは再び両親の元へ駆け戻っていく。<br />
「しまった、思わぬところに恋敵が潜んでたか。あいつめ&hellip;&hellip;」<br />
「何のこと？」<br />
　きょとんとしているエレインの問いをかき消すように、列車は長い汽笛を残して走り去った。<br />
<br />
「あのう&hellip;&hellip;もしかして、エレイン、さん？」<br />
　驚いて振り返る二人に声を掛けたのは、スケッチブックを抱えた画学生風の少女だった。広い額に掛かる前髪を掻き分けながら、金色に近い瞳で見上げる。<br />
「竜人の&hellip;&hellip;エレインさんですよね？　それにオーリローリ先生。雑誌に記事を連載していらしたでしょう？」<br />
「よく知ってるね」<br />
　オーリが愛想よく答えると、少女は顔を輝かせた。<br />
「ああやっぱり！　あたし、あのお話大好きだったんです。雑誌の記事、全部切り抜いて大切にしてます。あの、お名前書いてもらっても&hellip;&hellip;？」<br />
　少女は遠慮がちにスケッチブックを開いて差し出した。ページの中央に、オーリの描いたペン画が貼り付けてある。<br />
「二人連名でいいかな」<br />
　そう言うとオーリは万年筆を取り出し、エレインの手に握らせると、自分も手を添えて&ldquo;エレイン＆オーリローリ・ガルバイヤン&rdquo;とサインをした。<br />
「わあ、ありがとうございます！」　<br />
　感激した面持ちの少女は、周囲を気遣いながら小声で告げた。<br />
「じつは、あたしの母も、エレインさんと同じような身の上だったんです。誰にも内緒だけど」<br />
「あなたのお母さんは？」<br />
「二年前に亡くなりました。でも亡くなる前、悔いの無い一生だった、って父に言ってたんですって。父とは駆け落ちだったんですよ。これも内緒だけど」<br />
　少女はそれだけ言うと一礼し、スケッチブックを大切そうに抱えたまま走り去った。<br />
<br />
「オーリ、見た？　あの娘の目！」<br />
「ああ。竜人の目をしていたな」<br />
　次の列車に乗る人の列に紛れて、少女の姿はもう見えなくなっていた。それでもエレインはなおも、少女の去った方向を見ながらつぶやいた。<br />
「あたし、竜人の血を残せるのかも知れない&hellip;&hellip;」<br />
<br />
　やがて列車が走り去ると、駅は再び田舎の静けさを取り戻した。<br />
　オーリはひとつ咳払いをし、改まった顔でエレインに向き直った。<br />
「ところでエレイン、今日が新月の日だって覚えてるかな」<br />
「覚えてるもなにも、あたしが一番分かってることだもの。どうしたの？」<br />
「久しぶりに王者の樹に会いにいってみないか、二人で」<br />
「今から？　なぜ」<br />
「だから、今日は新月だから、その&hellip;&hellip;」<br />
　オーリはやや顔を赤くしながら言いよどんだが、エレインの手を取るときっぱりと言った。<br />
「君が故郷で迎えられなかった&ldquo;新月の祝&rdquo;を、あの神聖な樹の下でやり直したいんだ」<br />
「あら、&ldquo;新月の祝&rdquo;というのは何十人もの候補の中から一人の伴侶を選ぶものよ。あたしには選択の余地がないってわけ？」<br />
「ない！　ない！　君に選ばれるのは、このオーリローリ一人で充分だ。不満か？」<br />
「ふーん？」<br />
　エレインはからかうような目つきで、赤くなって必死な表情をしているオーリを見上げた。<br />
　&ldquo;選択&rdquo;ならとうにしている。二年前、故郷と共に滅ぶよりも、この風変わりな魔法使いと共に生きることを選んだあの日に。それがこの男には分からないのだろうか？<br />
「いやその、約束だけでもいいから&hellip;&hellip;そりゃ、僕は竜人の男に比べたら頼りないかも知れないけど」<br />
　次第に弱気になっていくオーリの声に吹き出しそうになりながら、エレインは大胆に腕を組んだ。<br />
「ま、いいでしょ」<br />
<br />
　柔らかな冬の陽射しが斜めに傾く中で、どう、と風が吹き過ぎる。<br />
　風の中に一筋、紅色と銀色の光が走り、笑い声と共に過ぎていったのに気付いた人はいただろうか。<br />
<br />
　静かな森の中で、常緑の王者の樹は、一層輝きを増した。<br />
<br />
（了）<br />
<br />
<br />
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    <category>小説　</category>
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    <pubDate>Wed, 20 Aug 2008 06:15:01 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>第十章　１１（スコーンが焼けるまで）</title>
    <description>
    <![CDATA[　翌日から巷は竜人の話で持ちきりになった。<br />
　<br />
　朗読番組の代わりに突然流された竜人の物語。<br />
　あれは作り話なのか、実話なのか。それともいつもの番組の中での&ldquo;劇中劇&rdquo;なのか。<br />
　昔魔法使いに与して竜人狩りを薦めた連中は大いに慌てた。ラジオ局に抗議し、竜人が迫害された話などでたらめだ、でっちあげだと躍起になって否定する者も居たが、それは局側の人間をにんまりさせるだけだった。良くも悪くも反響が大きいということは、それだけ多くの人間があの番組を聴いたということだ。<br />
「文句言いたい奴は言えばいいさ。絶対、ムダにはしないからな」<br />
　録音技師の男は、竜人の声を納めたテープの大きなリールを見つめて、誰に言うでもなくつぶやいた。<br />
　最初、番組が無断で差し替えられたことにカンカンになっていた出資者も、あまりの反響の大きさに態度を変えざるを得なくなった。&ldquo;もっと竜人の話を聴きたい&rdquo;という街の声が日に日に高まってきたからだ。<br />
　ラジオ局で導入されたばかりの新しい録音機械はエレインの声を鮮明なままに何度も再放送し、他局も争ってあちこちで埋もれていた竜人の話を取材するようになった。<br />
<br />
　そんな日々の中、ユーリアンが一通の電報を握り締めて飛び込んできた。<br />
「やったぞ！　オーリ、竜人たちは救われるかも知れない！」<br />
　オーリはユーリアンから受け取った紙片に目を落とした。悪名高い&ldquo;竜人管理法&rdquo;が凍結されることになったことを示す文面が綴られている。<br />
「実は&ldquo;管理法&rdquo;を潰す動きはお偉方の間でも前からあったんだってさ。ただ、潰すタイミングが問題だった。雑誌の記事やラジオ放送のお陰で世間が騒ぎ出したから、勢いに乗って一気に追い込んだようだ。情報源は確かだぜ。魔女出版宛に届いたものをトーニャが複写してきたんだ」<br />
「ふうん、じゃ我々は乗せられたのか、あるいは逆かな。それにしても急いだもんだ。魔女たちが、国のお偉いさんを脅かしたのかな」<br />
　冗談を言う口ぶりではあるが、オーリの笑顔はどことなく硬い。<br />
「なんだ、もっと喜べよ。エレインはこれで晴れて自由に&hellip;&hellip;おい？」<br />
　驚くユーリアンの目の前で、エレインが悔しそうに両眼から涙を溢れさせた。<br />
「あたし、喜べない」<br />
　ギリリと音を立てて、椅子の背に爪が食い込む。<br />
「だってそのためにステファンは&hellip;&hellip;」<br />
　オーリは爆発しそうなエレインをなだめるように抱き寄せて、同じく沈痛な表情をした。<br />
「あの子、そんなに悪いのか？」<br />
「ああ。ラジオ局から帰ってきて、ずっとだ。ガートルード伯母があらゆる術を使って回復させようとしているけど、意識が戻らない――戻らないんだ！」<br />
<br />
　エレインの声が電波に乗ったその日、ステファンは首都に居た。<br />
　魔女たちの&ldquo;声送り&rdquo;を成功させるには、ラジオ局側にも二人の魔力を持つ者が必要だと聞いていた。声を受け取るいわば&ldquo;受信機&rdquo;役の魔女、そしてもう一人、語り手であるエレインの声を良く知る者。オーリは当然、エレインの傍に居なくてはいけないから、後者はステファンが引き受けることになっていたのだ。難しい仕事ではない、魔女と手を繋いでいればいいと聞いていた。ただ心を空にして、エレインの声を自分の喉に宿らせる――魔女が受信機ならステファンはスピーカーというところか。声変わり前の十一歳の少年には、適役のようにも思えた。<br />
　初めて見る都会のラジオ局で、物珍しさに目を輝かせながら、ステファンはオーリから借りたローブにしっかりとくるまった。電気系統に影響を与えないように魔力を抑えるには、自分の小さなローブでは間に合わないからだ。前日のテストで&ldquo;声送り&rdquo;を初めて見た、と興奮気味に言う局員たちにキャンディなどもらいながら、どきどきしながら魔女の到着を待った。<br />
　ところがアクシデントが起きた。<br />
　首都の空気はあまりにも汚かったのだ。十二月に入ってから急に冷え込んだせいで、家々のストーブには大量の石炭がくべられ、その煤が吐き出されたために街の上空は一寸先も見えないほどに濃いスモッグが満ちていた。年老いた魔女はその中を懸命に飛んで来たものの、ラジオ局に辿り着く頃には消耗してもう呼吸さえおぼつかず、とても&ldquo;受信機&rdquo;の役は務まりそうにない状態になってしまっていた。<br />
　放送の時間は迫っていた。&ldquo;中止&rdquo;の声が囁かれるのを聞いたステファンは、夢中で叫んでいた。<br />
「止めちゃだめだ！　ぼくが二人分の働きをします。魔女さん、声の受け取り方を教えて！」<br />
<br />
　オーリが小さな弟子のあまりにも無謀な行動を知ったのは、放送終了後のことだった。<br />
　ステファンを迎えに行ったガートルードは、おいおいと泣き崩れる魔女の横で魂が抜けたように転がる少年の姿を見て、全てを察した。<br />
　そして一週間。治癒魔法に長けた魔女が入れ替わり立ち代り、ステファンの治療にあたってきたが、体力も魔力も充分に回復したはずなのになぜか意識だけが戻って来ないのだ。<br />
「ステフ、ステファン」<br />
　小さな額に自分の額を押し付けて同調魔法の姿勢をとりながら、もう何度呼びかけたか知れない名前をオーリが呼び続けていた頃、階段下から甲高い声が響いてきた。<br />
「どいて、どきなさい！　母親のあたくしが会いにきたのです、治療中だろうが知るものですか。息子に会わせなさい！」<br />
　勢い良く開いたドアの内側で一瞬立ち止まった小柄な婦人は、魔女達を押しのけてベッド脇に駆け寄り、ひざまずいていたオーリを突き飛ばすようにして息子に取りすがった。<br />
「ステファン！」<br />
　強引に魔法を中断されたオーリが眩暈してうめくのには構わず、ミレイユは両手で息子の頬を挟んで呼びかけた。<br />
「聞こえて？　聞こえるわね、お母さんよ！　目を開けてちょうだい！」<br />
<br />
　<br />
　灰色の濃い霧の中を、ステファンは歩いていた。<br />
　前へ？　後ろへ？　右へ？　左へ？<br />
　足元さえ不確かなこの感覚は、何かに似ている。<br />
「参ったなあ。また迷子になっちゃった」<br />
　立ち止まり、周囲を見渡してため息をつく。ため息は透明なつむじ風となり、目の前の霧を一瞬、晴らした。<br />
「あれは&hellip;&hellip;？」<br />
　霧の向こうに見晴るかす、緑の渓谷。その中を駆けてゆく赤い髪。<br />
　けれどそれらはすぐにまた、濃い霧に隠されてしまった。ステファンはしばらく茫然としたが、すぐに口元に笑いを浮かべた。<br />
「隠してもだめだよ。ぼくにはちゃーんと見えるんだ」<br />
　そして目を閉じ、意識を集中する。頬に風を感じて再び目を開くと、渓谷の様子は一変していた。<br />
　あちこちで上がる黒煙。眩い火花と、剣のぶつかり合う音。怒号。悲鳴。ステファンは思わず叫んだ。<br />
「やめて！　竜人は悪くないのに！」<br />
　知っている。これはオーリの絵で見た、エレインの話で聞いた、フィスス族最期の日の光景だ。ステファンは身震いし、走り出していた。<br />
「逃げて！　魔法使いは残酷なんだ、みんな逃げてってば！」<br />
　そう、知っている。この後、エレインの父も母も、誇り高き仲間も皆、全滅することになるのだ。けれどそんなことを目の前で見たくない。一人でも、二人でも生き残っていて欲しい。でないと、エレインは一人ぼっちになってしまう。<br />
「エレ&hellip;&hellip;」<br />
　黒い煙にむせた。呼吸ができない。すぐ足元で火花が飛び散った。<br />
「危ない！」<br />
　突然誰かに腕を引っ張られて、ステファンは再び霧の中に戻った。<br />
　咳き込んで呼吸を取り戻しながら、どうして、と抗議しようと顔を上げる。<br />
「過去は、取り消せないんだ」<br />
　霧の向こうで静かな声が語りかけた。どこかで聞いた声だ。<br />
「どんな許せない過去でもだ。もっと早くに気付くべきだった。答えは現在と、未来にしか探せない」<br />
　霧をかき分けて、その人が歩み寄る。次第にはっきりと顔が見えるようになると、見覚えのある鳶色の目がまじまじとこちらを見ているのに気付く。<br />
「お前&hellip;&hellip;ステファン？　ステファンなのか？」<br />
　間近で自分の名を呼んだ人の顔を見て、ステファンは驚き、息を飲んだ。そして次の瞬間には相手の名を呼ぶよりも先に、飛び上がって首に抱きついていた。<br />
「お父さん――お父さん！」<br />
「ステファン！」<br />
　紛れもない、これは父だ。父のにおい、父の声、父の体温。なにもかも、二年間頭の中で忘れないように思い出していた、そのままの父だ。<br />
「信じられない。どうやってここへ？　一人で来たのかい？」<br />
「うん。あのね、ぼく&ldquo;声送り&rdquo;って魔法のお手伝いをしたんだ。そしたら&hellip;&hellip;」<br />
「声送りだって？　そんな難しい魔法を手伝ったのか。なんて無茶をするんだ、お前は」<br />
　オスカーは言いながらも、誇らしそうに息子の頭をくしゃくしゃにした。<br />
　けれど懐かしい大きな腕がしっかりと自分を包んだのを感じた途端、ステファンは猛烈にわけのわからない怒りを感じて、オスカーの肩を、頭を、小さな拳で叩き始めた。<br />
「なんで！　どうして出てっちゃったんだよ！　ぼくの誕生日だったのに！　何にも言ってくれないでさ！　ひどいよ、ずるいよ！」<br />
「ステファン、そうだったね」<br />
「お、お&hellip;&hellip;」<br />
　涙と一緒に押さえようとしても溢れてくるものを飲み下し、ステファンはそれまで一度も口にした事のない言葉を思いっきり吐き出した。<br />
「お父さんの、ばーーーっかやろおおおう！」<br />
　抱きしめる父の腕に、力がこもる。ステファンはなおも泣き喚いた。<br />
「お母さんもだあっ！　いつもいつも怒ってばかりで、ぼくの言うことなんてちっとも聞いてくれなくて！　もういい、ぼくは魔法を覚えたら悪い子になってやるんだ！　エレインに、うんと悪い言葉を教わってやる。お、お母さんの、ば&hellip;&hellip;」<br />
　大きな手が口を塞いで、ステファンにそれ以上の悪口は言わせなかった。<br />
「お前は、悪い子になんかならないよ。前に言っただろう、この世に生まれてきてくれただけで、もう既に&ldquo;いい子&rdquo;なんだって」<br />
　父の目が笑っている。ステファンはしゃくりあげながら、自分と同じ色の目を見つめ返した。<br />
「ステファン、本当はお父さん達のことを、ずっと怒ってたんだね？　怒ってたのに、誰にも言えなかったんだね？」<br />
　涙でぐしゃぐしゃになった顔で、このまま父の手に噛み付いてやろうかと思ったがそれはできず、ステファンはひと言だけ返した。<br />
「――うん」<br />
　オスカーはもう一度しっかり抱きしめてくれた。ごめんな、という声が聞こえたようにも思ったが、もうそれはどうでも良かった。ステファンは父の肩にしばらく顔を埋めてから、腕を突っ張って地面に飛び降りた。<br />
「でも、ぼくはもう十一歳なんだよ。自分の杖だって持たせてもらったんだ。だから――」<br />
「だから？」<br />
「だから。お父さんのこと、許してあげる」<br />
　自分でもひどく幼稚な言い方をしてしまったと思い、急にステファンは恥ずかしくなって顔を背けた。<br />
「そうか、許してくれるのか。お母さんのことは？」<br />
「お母さんは&hellip;&hellip;」<br />
　言いかけて、ステファンはふと誰かに呼ばれたような気がして振り向いた。<br />
　呼んでいる。オーリが、エレインが、マーシャが。いやもっと多くの声が、懸命に自分を呼んでいる。そして&hellip;&hellip;<br />
「お母さんの声だ」<br />
　ステファンの耳に、はっきりとそれは届いた。温かな力が、胸の中に満ちてきた。<br />
「帰ろう、お父さん。お母さんが呼んでる。早く帰らないと、お父さんも叱られるよ」<br />
「叱られるのに、お前はお母さんを許すのかい？」<br />
「だってさ。お母さんは、お母さんだもの」<br />
　ステファンは半分照れくさそうに答えた。オスカーが笑ってうなずく。<br />
「先に帰りなさい、声がするほうへ。それが出口だ」<br />
「お父さんは？」<br />
「別の出口から帰るよ。なに、すぐに追いつくから」<br />
　手を振るオスカーにきっとだよ、と念を押して、ステファンは自分を呼ぶ声に向かって駆け出した。<br />
<br />
「どうして目を開けてくれないの&hellip;&hellip;」<br />
　何度呼びかけても反応のない息子の手を握り締めて、ミレイユはさめざめと泣いていた。胸の上に顔を伏せ、何かを詫びるように。けれどひとしきり泣いた後、ミレイユは顔を上げた。そして涙をぬぐうと、やおら立ち上がり、腹に力を込めて声を放った。<br />
「ステファン・ペリエリ！　何時までそうしているつもりです、　いいかげんに起きなさい、遅刻しますよ！」<br />
「はいっ！」<br />
　突然はっきりとした返事を返し、鳶色の目が開いた。<br />
　おおお、と声をあげて魔女たちがざわめく。<br />
「ス、ステファン？」<br />
「ステフ、目が覚めたの？」<br />
「坊ちゃん！」<br />
　拍手と歓声が起こる中、オーリとマーシャが両側から駆け寄った。<br />
　ミレイユはその場で放心したように座り込んだ。自分から声を掛けたにもかかわらず、信じられない、とでも言うように。エレインが気付いて、そっと抱え上げ、ステファンの脇に座らせる。<br />
「お、母、さん」<br />
　一音ずつ確かめるように言いながら、ステファンは手を伸ばして母の顔に触れた。<br />
「この子は&hellip;&hellip;まったくもう、この子は十一にもなって！　相変わらず寝起きが悪いんだから！」<br />
　灰色とも緑色ともつかぬミレイユの目から、何粒もの涙がステファンの顔に降る。ああ、お母さんはこんな目の色をしていたんだな、とぼんやり考えながら、ステファンは妙に心地よい思いで母を見つめた。<br />
<br />
　突然、ドンドンドンと何かをノックするような音と共に、くぐもった人の声がした。一同は顔を見合わせ、声を辿って視線を巡らす。オーリはベッドの下を覗き込んだ。<br />
「こいつから聞こえてるんだ」<br />
　オーリが引っ張り出したのは、古い革製のトランクだった。ステファンが家を出る時にどうしても持って行くと言って譲らなかった、オスカー愛用のものだ。<br />
「お父さん&hellip;&hellip;」<br />
　ステファンのつぶやく声に何かを察したように、オーリが指を弾いた。火花と共に革ベルトが一斉に外れ、トランクの蓋が勢い良く開く。と、中から何者かの上半身が飛び出してきた。<br />
「オスカー！」<br />
　トランクの中は&ldquo;保管庫&rdquo;の本と同じように広い空間がひろがっている。オーリとユーリアンが左右から腕を引っ張ってオスカーの身体がすっかり出てしまうと、空間は音もなく閉じてただのトランクに戻った。<br />
「やあ、オーリにユーリアン。ここは？　今日は何日だ？」<br />
「十二月十二日&hellip;&hellip;」<br />
　茫然としたままでオーリが答える。オスカーはぐるっと部屋を見回し、ステファンの枕元にある小さな置時計に目を留めた。<br />
「十二時十二分。ぴったり、計算どおりだ。やあ、ミレイユ」<br />
「この&hellip;&hellip;！」<br />
　オーリがオスカーに掴みかかった。そのまま殴りつけるのではと肝を冷やしたマーシャが止めようとしたが、彼はそのままステファンの隣にオスカーを突き飛ばした。<br />
「何が&ldquo;やあ&rdquo;だ、なにを呑気に！　さあ謝れオスカー、ステファンとミレイユに。どういうわけだか全部説明してもらうぞ！」<br />
「もう、謝ってもらったよ」<br />
　か細い声がして、ステファンの顔が横を向いた。自分の隣に落ちてきたオスカーに手を伸ばし、これ以上の幸せは無い、というような笑顔を見せる。<br />
「お帰り、お父さん」<br />
「ただいま、ステファン」<br />
　父子は笑い合い、再びしっかりと抱き合った。<br />
<br />
「まあ、なんてこと！」<br />
　ミレイユのヒステリックな声が部屋に響いた。<br />
「オスカー、あなたという人はどうしていつもいつも！　出かける時も突然なら帰るのも突然なんだから！　第一ここはよそ様のお家なのよ、カバンの中から入ってくる人が居ますか！　お玄関から入っていらっしゃい！」<br />
　機関銃のような声に皆が呆気に取られている中オスカーは、<br />
「わかった！」<br />
　と答えて弾かれたように廊下に飛び出した。玄関はこっちだな、という声と階段を駆け下りる音が聞こえてくる。<br />
「お母さんったら&hellip;&hellip;」<br />
　困惑するステファンをよそに、細い眉を吊り上げたままのミレイユは足音も高く玄関に向かう。マーシャが慌てて後を追った。<br />
　玄関ベルが鳴る。マーシャが扉を開けると、笑いそうな、泣きそうな顔のオスカーが立っていた。<br />
「突然お邪魔してすみません。こちらにミレイユというご婦人はいらっしゃいませんか？」<br />
　マーシャが答える前に、ずい、とミレイユが進み出た。<br />
「あたくしがミレイユですわ。ミレイユ・リーズ」<br />
　皮肉たっぷりに旧姓を名乗ったミレイユの手をオスカーの両手がしっかりと握った。<br />
「オスカー・ペリエリと申します。もう一度どうしても貴女にお会いしたくて、はるばる戻って参りました」<br />
　鳶色の目に強い光りが踊っている。見上げるミレイユは硬い表情を崩さないまま、乙女のように頬を染めた。<br />
「まあ&hellip;&hellip;まあ、お二人とも。さあどうぞお家の中へ。暖炉の前でゆっくりとお話くださいまし」<br />
　マーシャが目尻の涙をぬぐいながら笑って、二人を居間に導こうとした。オスカーが鼻をひくつかせて顔を輝かせる。<br />
「スコーンの匂いだ。ああ、懐かしい！　この二年間、何かを食べるってことを忘れていたからなあ」<br />
「さようでございますか。ええ、もうすぐ焼きあがるところですよ。二階の皆さんもお呼びしてお茶にしましょうかねえ」<br />
「では、あたくしもお手伝いいたしますわ」<br />
　ミレイユはオスカーの手を振り払い、背中を向けたまま小さな声で付け足した。<br />
「オスカーのお茶の好みは、あたくしが一番知っておりますから」<br />
<br />
　暖炉の火が勢い良く燃え上がった。<br />
　二階に居た魔女たち、エレイン、ユーリアンがお茶の席に着く。そしてステファンは毛布にくるまれたまま、オーリに抱えられて下りてきた。小さい子みたいで嫌だ、と彼は駄々をこねたが、一人で歩くほどにはまだ回復していない、とどうしてもオーリが許してくれなかったのだ。<br />
　お茶をミレイユに任せて、マーシャはスコーンの具合を見た。いい焼け具合だが、もう一呼吸置かなくては。美味しいスコーンを食べるには、急いではいけない。ものごとには必要な手順と、掛けねばいけない時間があるものだ。<br />
　そう、時間ならこれからいくらでもある。じっくり、じっくり。<br />
　やがてオーブンから取り出されたキツネ色のスコーンは、美味しそうなヒビ割れと共に甘い匂いを放つだろう。<br />
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    <category>小説　</category>
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    <pubDate>Tue, 12 Aug 2008 01:27:46 GMT</pubDate>
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